俺の友達にさ、舞城の「煙か土か食い物」にでも出てきそうな奴がいるんだよ。あるいは「ノルウェイの森」の永沢みたいな。
スタイルもルックスも学歴も運動神経もいいし、当然のようにモテる。
なのになぜか女性のストライクゾーンが広いからどうしようもない状態。
で、英語とフランス語がペラペラで、ピアノもかなりの腕前。岩波は全部読んだとかいうのもあながち嘘とは思えない。
芸人の世界でいう上手い話とはまた別の種類の、上手い話し方をする。物事の捉え方が違うっていうか。まぁ、要は頭もいい。
それで持って何か芯がブレない、人とは違う雰囲気を持った奴。
で、この前久しぶりに飲みに行ったときに訊いたんだよ。
「まぁルックスは諦めるが、どうしたらお前みたいになれるんだろうか、その考え方みたいなものを教えてくれよ」って。
だけど、自分独自の感覚だし人には簡単には説明できないっていう訳だ。
まぁそりゃそうだろなと。それに、そういうところで得意気に語りだすような奴じゃないしね。
それで他の話題に移ったりした。というか、その日は俺がだいたいしゃべってた。
だけど、俺も奴も飲みが進んだところでまた俺がグダグダになりながら話題を掘り返して聞いてたんだ。
そうすると、ある一定の見方からだけどな、って断りを入れて奴が少しだけ語った。
「大抵の人は今の自分の状態を守りたがるだろ。今現在の自分についての考え方とか外部の世界に対する考え方とか関係性をあまり揺さぶられたくない。
成長はもちろん望んでるだろうけど、ノイズは嫌悪する。だけど、俺は今の自分が揺さぶられるようなノイズを受け入れる。
そのためにも今の自分と外部の世界に対する感じ方と関係性を把握しておかないといけないんだけどな。
"今の自分"を大事にしたまま、欲しいものを手に入れる方法なんてないよ」
こうすれば奴みたいになれるのかといえば全然そうとは思えないし、
実は一般論に見せかけて俺に向けての説教だったのかもしれない。
ただその時の表情も含めて何となく俺の胸に残っている。
岩波・・岩波文庫?
その友達は「今の自分は大事じゃない」って言ってる訳じゃないだろ。 「自分を変化させ得るものが世の中にあることを意識して、 それを受け入れないと生きて行けない」 と言う考え...