三菱から出ている「ジェットストリーム」というボールペンがある。ぼくは半年程前に文房具屋でこいつに出会ってから、メモを取るのも図を書くのも腰を据えて日記を書くのも、全てこれ一本でまかなってきた。それ程に気に入ったのだ。
とにかく、書き心地が良い。それまでボールペンというと、どこか薄い発色に、ゴロゴロとした独特の抵抗感があるというイメージを抱いていた。しかし、このジェットストリームは微塵もそんなことを感じさせない。炭のような黒色に、氷上を滑るようなペンの走り。筐体の安っぽさとたまに生じるインクだまを除けば、文句の付け所が無かった。
で、なんで急にこのジェットストリームの話か、ということなのだが、別にこのボールペンを宣伝しにきたわけではない。
先程のことだ。以前買い貯めておいたリフィルが切れたので、近所の文房具屋へ向かった。
ジェットストリームはどこかな、とボールペンコーナーの棚に向かい一段一段物色していくものの、中々見つかる気配がない。人気と聞いているのに、まさか置いてないなんてことはないだろう。そう思って顔を上げまわりを見渡すと、少し離れた場所にひときわ力の入った感じのする、特設コーナーがあるのを見つけた。そこにはでかでかと「ジェットストリーム」の文字。
へえ、やっぱ売れてるんだ。そう思ってコーナーへと近づく。どうやら色々と種類が出ているらしいのだが、ひとまず必要なのはリフィルだけだったので、黒の 0.7 mm を三本確保する。
これだけで帰るのもなんだし、まあせっかくだから、ということでやや太めのタイプを手に取って走り書きをしてみた。
あれ? 慣れ親しんだあの書き心地を予期していたぼくは、非常な違和感を覚えた。かなりの抵抗を感じたのだ。
「テスト。てすと」
何度か書き直してみる。やはりおかしい。線を引いたときの感触がねっとりとしており、発色も悪い。これではそこらのボールペン以下である。
ひょっとすると、誰かいたずらで中身を入れ替えたのか? そう思って違うものを一本手に取り、もう一度試し書きをしてみる。
結果は同じだった。その瞬間、ぼくはスカスカのブラックサンダーを思いだし、全てを理解した。ははあん、三菱のやつ、売れたからってやりやがったな。
どうしてこういうことしちゃうんだろうなあ。ぼくは何だかとても切ない気分になって、手に持っていた三本のリフィルを棚に戻し、すごすごと家路についた。
スーパージェットストリームは試してみたか? ジェットストリームよりも更に滑りがいいぞ。 ペンが勝手に先に進んでいってしまうくらいに。 お勧め。