ヒロインのもつ「リセット」の能力は、厳密には時間遡行ではない。一部の例外を除き、全てのものの状態を特定時点に復元する。6月9日にリセットをかけて6月6日時点に「戻した」としても、その間に経過した3日間が消滅するわけではない。6月7日に死んでしまった人は生き返るが、これは「死ななかったこと」になるわけではなく、文字通り生き返っているわけだ。カレンダこそ6月6日に「戻って」いるが、時間軸は連続しており、6月9日に6月6日の状態を持ち込んでいる。神の視点からすると、リセット後の6月9日は本来の6月6日から6日目ということになる。
さて、能力には強弱関係があるとされている。主人公のもつ「記憶」の能力はリセットよりも強い。そのためリセット後もリセット前の情報を保持することができ、ものごとのやり直しが可能となっている(ヒロインの脳はリセットされてしまうため、彼女自身ではリセットを活用できない)。同様に主人公の友人がもつ「任意の時間に任意の相手に声を伝える」能力もリセット耐性を有する。よって彼がリセット前に発した伝言は、リセット後にも有効に伝達される。これが物語の鍵になるのだ、が。こいつが結構むずかしい。
6月7日に、6月8日に友人が特定の相手に伝える目的で伝言を発したとする。その後、6月9日に主人公たちがリセットをかけて6月6日に戻った。2回目の6月7日には友人は動機を失っていたため伝言を発しなかった。それでも2回目の6月8日には彼の伝言が届く。さて作中にこんな描写があるのだが、これを前提に考えたとき、伝言>リセットと言えるか。
神視点で考えてみよう。1回目の6月6日を第0日とする。伝言は第1日に発せられ第2日に到達した。第3日にリセットされた。第4日(2回目の6月7日)には伝言は発せられない。そして第5日(2回目の6月8日)に伝言がふたたび到達する。つまり第1日の原因行為に対して2回の結果が生じている。能力の効果に対して影響が出ているかいないかで言えば、伝言は明らかにリセットに影響されているのだ。
2つの考え方ができると思う。ひとつは、伝言は相対的に、「今からN日後」に対して送信されるという説。もうひとつは、伝言は絶対的な指定として「X月Y日」に対して指定して送信されるという説。相対説をとった場合、伝言はリセットよりも弱いことにしなければ上の現象の説明がつかない。しかしこのとき、リセットにより原因行為が消滅した(第4日)のだから第5日に伝言が届くのは不合理となるだろう。他方、絶対説をとった場合、伝言の到達時はカレンダに対して紐づいている。リセットによりカレンダが巻き戻ったとすれば効果が再度発生するのは当然と言える。これは伝言>リセットという立場と矛盾しない(リセットはカレンダに干渉しているだけであって、伝言とカレンダの結びつきには干渉していない)。問題は、基準となるカレンダをどこに置くかだが。案外、自室の壁時計を発動タイマにしているとか。