最近よく思い出す人がいる。
思い出すと言っても顔も知らないし、声を聞いたこともない。
とあるオンラインゲームで知り合いになって1,2年メールのやりとりをしていた人のこと。
だから思い出すのはあの無機質なCGの顔だ。
みんな同じのイケメン顔。
声じゃなくて文章だ。
始めた当初は当たり障りのない知り合いができて、そこそこ楽しんでという感じ。
よくある寝食惜しんでのめりこむということはなかった。
食べることも寝ることもゲームより好きだったからかな。
そろそろこのゲーム飽きてきたな、っていう時期にその人と出会った。
思うに向こうも同じような時期だったのかもしれない。
お互い一人で居ても仕方ない所に一人同士だった。
それからログイン時間が合うこともあって、ゲームの中でよく落ち合うようになって
色々なところへ一緒にレベル上げに行ったり、金策に出かけたりするようになった。
あまりゲーム内の話をしなかった。
その人とのつながりは細く続いた。
向こうはどうか分らないけど、私はいつも小さな嘘を混ぜて
向こうのそういう情報を欲しいとも思っていなかったから。
だけど向こうは結構なプライベートをばんばんあけすけに送ってくる。
自分の部屋の写真や自分の顔(もっとも一部ではっきりわかるわけじゃない)
だんだん私は面倒になってきたのと人の生活を覗いているような好奇心とで
クラクラしてきた。でも関係はその後も続く。
向こうがいくらそういうものを送ってくれても私は一切の自分の情報を提示しなかったけど
不思議と要求されることがなかったのが長く細く関係が続いた理由だと思う。
だけど私が新しい仕事を始めて、ゲームはおろか自宅のパソコンさえ触る時間がなくなって
その人からいつものトーンのメールが届く。
そのたび小さなイライラが募ってきて
最終的に私は返信することを放棄してしまった。
元々返信率は悪かったし最初は私からの返信がなくとも、一定のメールが届き続けていたけど
一か月程返信を一切しなかった。
かといって面倒で受信拒否にもしていなかった。
だからメールはどんどん減ったけど
返信をしなくなってから3か月ほどはずっとメールが届いていた。
メールが来なくなって、薄情だけど私はすぐにその人のことを忘れてしまった。
熱のあるコミュニケーションをしたわけじゃない。
顔もしらない、声も知らない、知っているのは全部数字と記号に変換できる情報だけ。
なのに最近とてもよく思い出す。
あの時期私は時間を持て余すと同時に一生懸命気を紛らわせて生きていた。
なんかよくわからない毎日を。
都合のいいことだけ話して都合のいいことだけ聞けばいい相手。
だけど確かに救われてたんだなと思ったら
最後の別れがなんて失礼だったんだろうと恥じている。
せめて謝罪しようかとメールを作ったけれど送れなかった。
時間も経過しすぎた。
ここを見るかはわからないけど
この場を借りてその人に御礼を。
これからもどうかお元気で。
それで
あなたは何をしたかったの?
ああ、おれにもそういう人がいたなあ、と言う呟き。