2009-05-17

ある「差別」の物語

特定されるのが怖いんで曖昧にしか書けないけどね。

大昔、とある学祭演劇の筋書きを担当した事があった。当時のトレンドだった人種差別やらが題材のもので、最終的には全員が手を取り合って笑顔ハッピーエンドという、まあ、子供に夢を見させる程度にはちょうどいいかな、というレベル作品だった。

脚本はすんなりと完成し、劇の準備は着々と進み、本番が間近に迫ったある日、とある生徒達(その演劇を行うクラスではない)の保護者若干名が学校に訪れた。

「とあるクラスで、(前述のような筋書きの)演劇を行うというのは事実か。」

事実だ。」

自分達は『とあるカテゴリ』に属する者達を代表してここを訪れた。演劇の内容を聞くに、我々への差別意図する表現が認められる。直ちに修正せよ。」

「そのような意図は(当然だが)全く無い。最終的に全員が手を取り合う結末が用意されてある。」

「そのような反論は認めない。」

と、このような押し問答を1、2時間ほど続けたわけだが、埒があかないので最後にはこちらが折れた。彼らは「十分な修正がなされなかった場合、法的な措置も視野に入れているのでそのつもりで。」と我々に念を押して帰って行った。俺は早速脚本および台本の修正に取りかかった。

それから数日後、その演劇からは「そのカテゴリの人々」は完全に消え失せていた。劇中の世界からは「そのカテゴリ」は完全に存在しない事になった。もちろん、最後に手を取り合うシーンからも「そのカテゴリ」は消去された。具体的な「差別的表現」が不明だったのと、修正に費やせる時間が殆どなかった事による苦肉の策だった。

正直なところ、「法的な措置」は覚悟していた(当時は独身だったし)。同僚も皆俺に同情的だったし、上司達も「何かあっても次の仕事は何とかしてやる」と耳打ちもしてくれていた。しかし学祭は何事もなく無事終了。未だ彼らから抗議がなされたという話は聞かない。

だが、突然の台本大修正に生徒達は猛反発したのは言うまでもない。事情の説明は最低限に止めたが、修正の内容が内容なだけに生徒達が状況を把握するのに時間はかからなかった。結果として「そのカテゴリ」は、「俺たちの邪魔をする嫌な奴ら」として彼らの記憶に残った。

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