雨後の水曜日。その日はやたらと、消防車のサイレンが聞こえていた。
何ヶ月かに一回来る、訳のわからない鬱の日がきた。
シャワーにあたりながら、このまま死んでしまえれば
ものすごくいいんだろうな、生まれなおしたいなと
思いながら、いつもと違う鬱状態をどんよりとしていた。
結局、自分は勇気が無かったから、死ぬことが出来ずに会社に向かう。
さっきまで、死のふちに立っていたと思い込んでいる人間が、
管理人に咎められるのを恐れながら、非常階段を音を立てずに降りる。
そこでは、普段聞いた事の無い黒電話のなる音。
正面には消防車、防毒マスクをつけたオレンジ色の服を着た救急隊員達がいた。
「この建物の六階で硫化水素が撒かれました。もし何か重大なことが起きたときのために
連絡先と会社を教えていただけますか」
冷静に答え、時間があまり無かったが、ゆっくりと玄関から出て行った。
建物の横で担架に乗せられて、酸素マスクをつけてぐったりとしているネクタイをしたサラリーマン。
この人が自殺を図ったのだろうか。しかし、ネクタイをしているし、違う人なのだろう。
黄色い走査線を超えて、角を二度曲がると、いつもの日常がそこにあった。
一線を越えた、本人はどこへ行ったのだろう。勇気のある人。
今後の生活するうえでのリスクを拒否してまで、実行できた彼が羨ましい。