何故それが気になったのか最初分からなかったが、しばらく後に分かった。
ペスター夫だ。
数日前、分裂したのを初めて見た事で、単体でも分かったのだろう。
でも、何故最初に気がつかなかったのだろう。
理由は二つあった。
ひとつは、当然ながら片割れであるペスター夫人が隣を陣取っていないから。
もうひとつは、いつもうつむいていたペスター夫の視線が上を向いているからだった。
周囲を見ると…いた。
ペスター婦人は、ペスター夫と2人…いや、整然とはいえないが、人の流れに沿えば3人は後ろになるであろう場所に頭ひとつ分抜きん出て立っている。
電車がホームについた。
ペスター夫は、無理はないが、小さな体を素早く割り込ませ、1人前の人間を抜いて電車に乗り込んだ。俊敏な動きだった。
その後ろで、ペスター婦人が斜め前に居た女性を押しのけるようにして前に進んだ。
だが、電車の扉は狭い。ペスター婦人に押された女性の行き場はなく、半歩ずれただけで、反対側に並んでいた人に押し返された。婦人は女性の後に続いた。
電車に乗り込むと、また先ほどの女性が変な方向に押されてきた。ペスター婦人だ。
体を斜めにして、タックルするように肩を割り込ませている。
だが、順番に前に詰めて立つしかない電車の中、そこに割り込むスペースなどない。
婦人は諦めて、反対側にターゲットを変えた。今度は成功したようだ。
扉が閉まった。
頭一つ分高いペスター婦人が一人、また一人と押しのけるのが見える。
狭い車内は、彼女の動きを繊細な波のように伝えた。
「空いてるわね!」
唐突にペスター婦人の声が響いた。何故か妙に大きな声だった。
小さなペスター・夫の顔は見えないが、どうやら隣まで到達したらしい。
ペスター婦人の左で吊り輪につかまっている手がそうなのだろう。
右手は上がったままだった。
ペスターは合体しないまま、先日の駅まで運ばれた。
駅に着き、扉が開くと視界が少し開けた。
視線はまだ上を向いていた。
まるで、先日、ペスター婦人の後を必死についていった姿が嘘のような、
機敏な動きだった。
ペスター婦人も続いて降りた。
こちらも乗り込んだ時と同じように、前の人を押しのけて出て行く。
ペスター夫を、ペスター婦人が追う、先日とは逆の姿が見られた。
だが、圧倒的に足の長さの違う二体だ。
今度は、階段に到達する前に、婦人は夫の隣に追いついた。
いや、追い越した。
かつて常に合体していたペスターの姿は、見られないままだった。
通勤ラッシュなのに、自分のスペースをガンとして動かない猛者が時々いる。 どれだけ人が出入りしようとも、前後左右の人間が人波に押されようとも、 一度自分が立った場所を死守す...
朝、電車を待つ列の前に、小さな中年男性がいた。 何故それが気になったのか最初分からなかったが、しばらく後に分かった。 ペスター夫だ。 数日前、分裂したのを初めて見た事で、...
今さらながら、ぺスターがウルトラ怪獣のぺスターから取られているんであろうことに気付いて笑った。