2009-04-10

朝、電車を待つ列の前に、小さな中年男性がいた。

何故それが気になったのか最初分からなかったが、しばらく後に分かった。

ペスター夫だ。

数日前、分裂したのを初めて見た事で、単体でも分かったのだろう。

でも、何故最初に気がつかなかったのだろう。

理由は二つあった。

ひとつは、当然ながら片割れであるペスター夫人が隣を陣取っていないから。

もうひとつは、いつもうつむいていたペスター夫の視線が上を向いているからだった。

周囲を見ると…いた。

ペスター婦人は、ペスター夫と2人…いや、整然とはいえないが、人の流れに沿えば3人は後ろになるであろう場所に頭ひとつ分抜きん出て立っている。

電車がホームについた。

ペスター夫は、無理はないが、小さな体を素早く割り込ませ、1人前の人間を抜いて電車に乗り込んだ。俊敏な動きだった。

その後ろで、ペスター婦人が斜め前に居た女性を押しのけるようにして前に進んだ。

だが、電車の扉は狭い。ペスター婦人に押された女性の行き場はなく、半歩ずれただけで、反対側に並んでいた人に押し返された。婦人は女性の後に続いた。

ほぼ満員の電車の中、ペスター夫の姿はもう見えない。

電車に乗り込むと、また先ほどの女性が変な方向に押されてきた。ペスター婦人だ。

体を斜めにして、タックルするように肩を割り込ませている。

だが、順番に前に詰めて立つしかない電車の中、そこに割り込むスペースなどない。

婦人は諦めて、反対側にターゲットを変えた。今度は成功したようだ。

扉が閉まった。

頭一つ分高いペスター婦人が一人、また一人と押しのけるのが見える。

狭い車内は、彼女の動きを繊細な波のように伝えた。

「空いてるわね!」

唐突にペスター婦人の声が響いた。何故か妙に大きな声だった。

小さなペスター・夫の顔は見えないが、どうやら隣まで到達したらしい。

ペスター婦人の左で吊り輪につかまっている手がそうなのだろう。

右手は上がったままだった。

ペスターは合体しないまま、先日の駅まで運ばれた。

駅に着き、扉が開くと視界が少し開けた。

ペスター夫が、足早に電車を降りるのが見えた。

視線はまだ上を向いていた。

ペスター夫は、乗り込んだ時と同じ素早さで電車を離れていく。

まるで、先日、ペスター婦人の後を必死についていった姿が嘘のような、

機敏な動きだった。

ペスター婦人も続いて降りた。

こちらも乗り込んだ時と同じように、前の人を押しのけて出て行く。

ペスター夫を、ペスター婦人が追う、先日とは逆の姿が見られた。

だが、圧倒的に足の長さの違う二体だ。

今度は、階段に到達する前に、婦人は夫の隣に追いついた。

いや、追い越した。

かつて常に合体していたペスターの姿は、見られないままだった。

http://anond.hatelabo.jp/20090409115947

記事への反応 -
  • 通勤ラッシュなのに、自分のスペースをガンとして動かない猛者が時々いる。 どれだけ人が出入りしようとも、前後左右の人間が人波に押されようとも、 一度自分が立った場所を死守す...

    • 朝、電車を待つ列の前に、小さな中年男性がいた。 何故それが気になったのか最初分からなかったが、しばらく後に分かった。 ペスター夫だ。 数日前、分裂したのを初めて見た事で、...

    • 今さらながら、ぺスターがウルトラ怪獣のぺスターから取られているんであろうことに気付いて笑った。

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん