「総裁、私は量的緩和を拡大すべきではないと思います。効果が見込めません」
2003年秋、日銀総裁室。金融製作担当理事の白川方明が、総裁の福井俊彦にそう直言すると、居合わせた数人の幹部に緊張が走った。「量的緩和に一定の効果はある」。福井は首を縦に振らなかった。
量的緩和政策は、01年、福井の前任の総裁速水優の時代に導入された。金利を目標に政策を行うのではなく、民間銀行が日銀の当座預金に置いている「資金量」を目標にする政策に切り替えたのだ。
(中略)
白川も量的緩和に全く効果がないと思っていたわけではない。市場に潤沢に資金が供給されることで、市場に安心感は広がる。しばらく金利引き上げがないと言う判断から長期金利が下がる効果も見込んでいた。
ただ、01年以降の結果を分析したところ、量的緩和の拡大が直接、株価を上昇させたり、経済の需要を増したりする効果は乏しいと判断した。
「福井総裁は『多少でも効果がるなら、あるといって続けたほうが経済にとってよい』と言う考え。白川理事は『効果が大して期待できないなら、効果があると言い張るのはごまかしに近い』と思う。2人の哲学の違いだった」