2008-10-30

非コミュの死

命知らず。

男はそう呼ばれ、また誇りにしていたようである。

乱世の時代であった。

皆が生きるために必死であり、死地に赴くものを賞賛することはない。

その中で、彼は居場所を失っていく。

幼いころの彼は、身長が低く、膂力にも恵まれていなかった。

もっといけないのは童顔の美少年であることだ。

猛烈な訓練をつみ、その腕前は知られていたが、体格的には見劣りがする。

そこで、当時の上役は、彼を小姓に取り立てた。

この時代、小姓は管理職養成過程である。

取り立てられた男は、次第にたび重なる無謀な進言で周りを困惑させていった。

悪いことに、成長しても身長は伸びず、顔だけがじじむさくなっていった。

将の器ではないことは、いままでに参加した軍議で自ら証明してしまった。

兵としても、体格の悪さからよい評価を勝ち得なかった。

矮躯で膂力もない以上、無理に育成してものびしろがないと判断されたのだ。

男は出身地の村に帰された。

そこで、警察のような仕事をしていたようである。

役職を与えられてはいたものの、無給である。

他の村人と同じく、田畑を手入れしなければ喰ってはいけない。

その上で、村を守ることもおろそかにはできない。

男は追い詰められていった。

喰うには困らないが、村人は手を差し伸べてはくれぬ。

村人に尽くしてはいるが、打っても響かぬ鐘のように信頼を得ることはできなかった。

ある日、村に大きないのししが迷い込んだ。

いのししというものは、思われている以上に危険ケモノである。

それは間違いないのだが、男は剣を持ち追ってしまった。

哀れ、男の望んだ一騎打ちは、村でのいのししとの1回のみ。

そして、命知らずの名に恥じぬ相打ちとなった。

男にはどこか死を求めているところがあったのだろう。

獲物を選ぶにも槍や弓など、より安全で確実なものがあろう。

それでも剣を選んでしまったところに悲哀を感じるのである。

彼の葬儀はひっそりと行われた。

その墓に花が供えられることはなく、今はすっかりさびれ、どこにあるかもわからない。

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