命知らず。
男はそう呼ばれ、また誇りにしていたようである。
乱世の時代であった。
皆が生きるために必死であり、死地に赴くものを賞賛することはない。
その中で、彼は居場所を失っていく。
幼いころの彼は、身長が低く、膂力にも恵まれていなかった。
もっといけないのは童顔の美少年であることだ。
猛烈な訓練をつみ、その腕前は知られていたが、体格的には見劣りがする。
そこで、当時の上役は、彼を小姓に取り立てた。
取り立てられた男は、次第にたび重なる無謀な進言で周りを困惑させていった。
悪いことに、成長しても身長は伸びず、顔だけがじじむさくなっていった。
将の器ではないことは、いままでに参加した軍議で自ら証明してしまった。
兵としても、体格の悪さからよい評価を勝ち得なかった。
矮躯で膂力もない以上、無理に育成してものびしろがないと判断されたのだ。
男は出身地の村に帰された。
役職を与えられてはいたものの、無給である。
他の村人と同じく、田畑を手入れしなければ喰ってはいけない。
その上で、村を守ることもおろそかにはできない。
男は追い詰められていった。
喰うには困らないが、村人は手を差し伸べてはくれぬ。
村人に尽くしてはいるが、打っても響かぬ鐘のように信頼を得ることはできなかった。
ある日、村に大きないのししが迷い込んだ。
いのししというものは、思われている以上に危険なケモノである。
それは間違いないのだが、男は剣を持ち追ってしまった。
哀れ、男の望んだ一騎打ちは、村でのいのししとの1回のみ。
そして、命知らずの名に恥じぬ相打ちとなった。
男にはどこか死を求めているところがあったのだろう。
獲物を選ぶにも槍や弓など、より安全で確実なものがあろう。
それでも剣を選んでしまったところに悲哀を感じるのである。
彼の葬儀はひっそりと行われた。
その墓に花が供えられることはなく、今はすっかりさびれ、どこにあるかもわからない。