今までいろんな人間とつきあってきた。超人と呼んでいい人間も数名いた。
そのうちのひとりには、「これができたら1000円やるから」と言われ、建設中のマンションの鉄骨を命綱無しで一周したとされる、リアルカイジがいた。
リアルカイジは商才に長けていた。この点では、ベンツのエンブレムをパクって糊口をしのぐ、マンガのカイジとは異なる。
彼は中学生にして、中古ゲーム屋の買値と売値の中間の値段でゲームを売買するマーケットプレイスを構築した。当然ながらこのマーケットプレイスは、売り手と買い手にWin-Winの関係が成立するので、好評であった。
彼自身も、このマーケットプレイスを使って、ゲームを買っては売りを繰り返し、少ない投資で様々なゲームを満喫していた。
だが、僕が今でも一番忘れられないのは、アミラーゼ超人である。
中学の理科の実験で、唾液がデンプンを分解するための条件を調べるものがある。唾液に含まれる酵素のアミラーゼが、人肌程度の温度下でないとデンプンを分解出来ないという条件を実証するアレだ。
クラスのみんなの唾液は、当然ながら上記の条件に従った。しかし、アミラーゼ超人の唾液だけは、いかなる温度下においても、見事なまでにデンプンを分解したのである。いくら氷水に浸そうが、いくら熱湯に浸けようが、彼の唾液はデンプンを分解した。
これを不審に思った先生が追試をしても、やはり結果は同じであった。
この結果は、理科が好きだった我々の派閥に衝撃を与えた。なぜならこの結果は、アミラーゼ以上の性能を誇る酵素を持つ人間の存在、すなわち、超人の存在を示唆するものだったからだ。
我々は、彼をどこかの大学の研究室に送り、彼の唾液に含まれる酵素が何であるのか検証して貰おうとした。しかし、それは実現しなかった。
よって、「おそらく彼は、進化した人間なのだろう。つーか、そう思った方がロマンがあるし。」というのが、我々の結論となった。それから10余年が過ぎた今日でも、彼の唾液に含まれる酵素が何だったのかは、全く思いもつかない。
なので、僕の中で彼は今でも、進化した人間としか思えないのである。
彼はいわゆる今で言う「おバカ」であった。クラスのみんなは、おバカな彼に勉強を教えたり、受験での面接の模擬練習につきあって、何とか彼を高校に進学させようとした。
その甲斐あってか、彼は地元の高校の自動車整備科に入ることが出来た。風の噂では、彼はその高校で生徒会長になったという。このあたり、やはり彼は超人であったと思う次第だ。
今頃彼は、どこかの自動車会社の工場で、その超人ぶりを発揮しているのだろうか。あるいは、どこかの整備工場で、その腕を振るっているのだろうか。もしそうなら、ペーパードライバーを返上してでも、彼の作った or 整備した車を動かしてみたいと思う。