2008-06-29

「お前んちって金持ちだからな」

小さい頃から知り合い知り合いにそう言われて育ってきた。

意味が解らなかった。

だってそうだろ?

金持ちっていうのはさ、豪邸に住んでるもんなんだよ。

噴水が真ん中に設置してあるよーなひろーい庭があるお屋敷にさ。

うちみたいな木を数本植えていっぱいいっぱいな猫の額じゃなく。

犬だって、放置主義で勝手に育った雑種じゃなくて、躾のなった血統書付のドーベルマンを五、六匹飼ってるもんだろ?

でさ、ブランドもの着てさ、宝石キラキラさせてさ、こんにゃくとか、くわねーだろ?

ジジくさいベンツなんてただの見栄だよ。モノホンポルシェ台車庫に入れてんだぜ?

金持ちは。ブルジョワは。だから違うんだよ。俺は。なのになんでだ。何で俺はどこいっても「○○さんトコの息子さん」なんだ? 俺だって、三男だぜ? 家、継がないぜ?

大学に入って、はじめて親元はなれての一人暮らし

みんな食費を一万や二万に切り詰めてるらしい。俺もそうすべきだと思った。

へぇ、米ってこんなにするんだ。自炊なら、と思ったけど、意外に金かかるのな。

まぁ、いいや、他のところで節約すれば。俺、服とかあんまかわねーし。

話によると、とある先輩は一ヶ月八千円で食ってるらしい。

すげぇ。一日260円ちょっとじゃん。ホカ弁一食分じゃん。なのになんでンナ、ハイテンションなんスか?

初めてバイトして、給料を貰った。親に内緒で。別に何がほしかったわけでもない。楽しそうだったから。ただそれだけ。

最初はその額に別になんの感慨も抱かなかった。

「まぁ、こんなもんだろ」少ないとも、多いとも感じない。ただ、自分の働きの見返りであるということの方が重要だったのだから。

それで、しばらくして、ふと、疑問に思った。

バイト代だけで生活してみたら、どうなるんだろうか」

考えてみて、愕然とした。

例えば、週末に書店にぶらっとよって、小説やら漫画やらネタ本やら一生つかえねぇ知識満載の新書やら、そういうのを気まぐれに五??十冊。

例えば、デパ地下で気と食欲の赴くまま、カスピ海ヨーグルトやら惣菜やらタイカレーペーストやら。

例えば、なんとなく惰性で買っている昔ファンだったバンドCDゲームシリーズ物。

どれも、買えなくなる。

というか、食費だけでも今現在の質を保てるか。マンションも移らなきゃかも。

震えがきた。俺は何も知らなかったんだ。いつも何かが欲しいときには、親に渡して、親が金を払ってきた。その光景に何の疑問をもたなかった。それが普通だと思ってた。親父なんて昼行灯だと半分バカにしてたところもあった。

俺は家の跡継ぎじゃない。それに必要な資格すら持って無い。

俺は大学でたら、「フツーに」就職して、「フツーに」生きなきゃいけない。一個人として。「○○さんちのぼっちゃん」ではなく。

それこそ、まさに昔から俺が望んでいたことだ。親にもそう宣言した。そうだった。ハズなのに。

なんで、今、それがこんなにも怖いんだろう?

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