2008-01-29

月曜日歯医者に行った。

月曜の夕方はいつも混んでるんだけど、狭い待合室で座れない人もいるくらいだったから、

何だろう、と思ったら、車椅子の人がいた。高齢の男性だった。

この歯医者さん、地元ですっごく評判がいいんだけど(捻挫したときに行った接骨院で

おばあちゃんたちがベタほめしていたw)ああ、こういうことなのか、って納得した。

それにしても、虫歯だろうか。この高齢で自分の歯があるというだけでもすごいことだ。

その男性は、親族なのかな、つきそいで来てた50歳くらいの女性と、

ご近所に住んでいるらしきやはり50歳くらいの女性と、3人で話をしていた。

ご近所の女性が予約してあったタイミングで、男性が急患でいっしょに来たようだ。

男性の声がものすごく大きくって、2人の女性の声もつられて大きくなっていたようだった。

地声が大きい人なんていくらでもいるから、別に気にも留めずに、

トイレ入り口前のスペースに出されていた予備のスツールに座って、

週刊誌とか見ながら待ってたんだけど、どうしたってその3人の話が聞こえてしまう。

子供(といっても50代くらいだろう)の収入の話とかもしてるみたいだったから

何か聞いちゃいけないような気がして、かなり気を使ったんだけど、

聞くってよりも耳に入ってくるんだからしかたがない。

あれ?と思ったのは、近所に住んでいるらしき女性が、

「覚えてください、ねぇ」と言っているのが聞こえたときだ。

「覚えてください、ねぇ。うちのお父さんはもう亡くなったんですよ、10年前に」

男性は、「ほぉ、そうだったかぁ。で、どのくらいになる?」と答えた。

女性は、「10年ですよ」と答えた。

男性は、「ほぉ、そうかぁ」と答えて、「おれは兵隊に行ってたからなぁ」と続けた。

兵隊に行っていたという話は、その前にしていたのが聞こえていた。

3人の話はしばらく続き、そしてまた、5分ほどたったときに、

「もう亡くなったんですよ、10年前ですよ」という女性の声が聞こえた。

「ほぉ、そうかぁ」。「覚えてください」。

わたしは思わず彼らのほうを見てしまった。男性と目が合った。

男性は、とてもおしゃれな身なりをしていた。見るからに上質のウールの上着に、

アーガイル模様のベスト、のりのきいた白いシャツを着て、

ひざかけはイギリスブランドのチェック模様。頭にはこれまたシャレた帽子をかぶり、

大きな声で、はきはきと、会話をしていた。無限ループで。

順番が来て、その人たちは診療室に入っていった。

しばらくして、私も呼ばれた。

「はい、じゃあ椅子倒しますね」と歯科衛生士さんが言う声の向こう、

私のブース隣のブースから、「いたいよ、いたいよぉ」という大きな声が聞こえてきた。

「大丈夫よ、この先生じょうずだから、痛くないようにやってくださるから」という

女性の声も聞こえてきた。でも「いたいよぉ」の声は続いた。「いやだよぉ」。

歯科衛生士さんの「ふた、外します」の声がして、わたしの虫歯をかりかりとつつく音がして、

先生が、地元自治体の大きな診療施設に紹介状を書きますから、と説明しているのが聞こえた。

口をゆすいで、ふたの外された虫歯の大きな穴を舌先で確認しながら、

男性を乗せた車椅子が診療室から出て行くのを気配で感じた。

あのおじいちゃんは、歯が痛かったのだろう。

でもそれを直しに来たということを忘れていたのだろう。

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