いつものように集荷を頼めば良かったのだけれど月末が締め切りだった魔改造の原稿と作例が10日過ぎても未だ完成せず、詰まりに詰まっていて気が滅入っていたこともあって「外の空気を吸う」ついでに近所のヤマト運輸の集配所まで持って行く事にした。
少しデカイみかん箱を自転車に載せて秋の空気を嗅ぎつつ近所の集配所へ。
集配所のカウンターで対応に当たったのがいつも集荷に来てくれるクールな「仏頂面のおじさん」でとなんとも気まずい空気の中で「あ、どうも」と小さい挨拶を交わして荷物を渡す。
仏頂面おじさんが使い古されたメジャーで荷物を計ろうとした途端、一人の20歳くらいの女性が集配所に入るなりその仏頂面おじさんに話しかけてきた。
「OO町2丁目の△△ですけど…XX日の夜に荷物を届けてくれた方は……」
「ええ、無理を聞いて下さって…」
女性は少し興奮気味で話しだす。
盗み聞きするつもりは無かったんだけど、真横で自分の荷物の査収中に割り込まれたので嫌でも聞いてしまうポジション。聞いた。
早い話が「就職面接を受ける為に親元から送られたスーツが面接前日の夕方にアパートの届く筈だったのにバイトが長引いて遅れてしまい受け取れなかった。次の日だと間に合わない、途方にくれて営業所に連絡したら集配所に帰るのを引き返して大家に届けてくれた、ありがとう」と言うことだった。
「ああ、それなら私です。あのお地蔵さんの角を曲がったところでしょ?」仏頂面おじさんが応える。
おお!おじさん、いいところあるじゃないか。仏頂面の癖に。
「ああっ!そうなんですか、あの時はありがとうございます。おかげであの時の第一志望の会社から内定をもらいました!」と女性。「それはおめでとうございます」とおどろき顔の仏頂面おじさん。
「これはお礼なんですけど…」と大きな包みをおじさんに渡す。「皆さんで食べて下さい」と続ける。
おじさんも贈り物の辞退を申しでるが結局、女性の押しの強さと幸せそうな空気から受け取った。
最後に女性は「この度は本当にありがとうございました」と締めのお礼を言い、関係ないのに勝手に傍で「おめでとう」モードに入ってる自分に向かって「あ、割り込んでごめんなさい」と侘び、そして持っていた袋から「これ、どうぞ。」と小さな包みを渡した。
驚いて「いや、自分は…」と返す自分。「まだ一杯あるから。おすそ分けです」と去って行った。
…台風が去った後、気をとり直して中断された自分の荷物を計り始めるおじさん。
自分は受け取った「嬉しさのおすそ分け」だと思われる小さな包みを見ながらボーっと
「あの娘、あれだけしっかりハキハキお礼ができて礼儀正しくて器量が良ければスーツが無くても会社に受かったよねぇ…」とつい一言。
「ええ、ほんとにねえ」。入力機をポチポチやる仏頂面おじさんが少し微笑みながら返した。
そういえば彼女に「おめでとう」と言えなかったのを思い出して少し後悔しながら帰り道ペダルをこいだ。
「嬉しさのおすそ分け」は高級チョコだった。
http://anond.hatelabo.jp/20071009201643