俺は何よりも美味しいおやつを知ってる。まあ聞け。
親が買い置きしているお菓子から好きなのををこっそり選んで隠す。独り占めするためだ。
兄弟がみんな工夫して自分の隠し場所におやつを隠した。そして一人になったときに全部食う。最高だ。
しかしだ、やはり人気のあるお菓子はみんな食べたい。必然的に競争率は上がる。親が買出しに行った先でこっそり確保したり
学校から帰ってからの戸棚チェックをまめにやったり、俺たちはおやつ確保に余念が無かった。そして俺たちはついにお互いの
隠し食糧庫を暴きあうようになった。
他人が隠したとっておきのお菓子を盗み食う。これが究極最高に美味いおやつなのだ。
勝利の快感は文字通り甘美なる味わいとしておやつの最高の調味料だった。
そしてとどめに「バーカ」と書いた紙を隠し場所に置いておく。
悔しがる兄弟の顔を思い浮かべながら貪るおやつタイムは、勃起するほどの多幸感に包まれていた。
兄弟が帰宅してからは一修羅場だったが。
時はたち、俺は家を出た。
実家からかかって来た電話で、親がポツリと「お菓子がぜんぜん減らなくてねえ」と呟いた。
競争相手が減った兄弟たちは、さぞや好き放題におやつを食っているだろうと思っていた俺は驚いた。
おやつを食ったり食われたりして掴み合いの喧嘩になることも全く珍しくなかったのに。
ちょっと笑った。
そしてやっぱりちょっと、寂しくなった。
そしてまた時間が過ぎて兄弟たちもそれぞれ独立し、所帯を持った。
俺が子供のころよりも種類も嗜好もぐんと増えた。
それでもやっぱりあの頃ほどに美味いおやつは食ったことが無いんだ。