2007-01-12

不在

数年前の今頃、突然、作業効率が落ちた。

とにかく長文が読めない。内容が頭に入らず、何度もページを戻しては読み直す。ついさっき聞いた日時を思い出せない。簡単な計算の答えが出ない。

初めて仕事が遅れ、平身低頭で期日を延ばしていただいた。唸っていても仕方ないので、自分のアタマのテンポラリファイルに頼らず、常時メモを出力することにした。作業をしながら自分宛に大量にメールを書く。今読んでる書類の要点の抜き出し。思いつき。今受けた電話の相手と用件。他人へ連絡回す必要があるならその場で。これはなかなか効果があった。

それにしても元に戻らない。老化だろうか。

 

数週間後、足の爪を切ろうとして、両親指の爪に極端な「段」がついてるのに気づいた。段の横線から下は妙に分厚くムラがある。体調も栄養も良いし、精神的にストレスがかかったのだろうか?と考えた。しかし、段がある位置は、仕事が滞るよりもかなり前に生えている。ぼんやり眺めているうちに、それがいつのストレスなのか思い至った。

弟の3回忌だ。

とたんに、すとんと腑に落ちた。

事故で突然亡くなった弟の葬儀ではずいぶん泣いた。3回忌の法要でも泣けた。

しかし、それで終わりだとどこかで思っていた。イベントで想起させられると泣けるだけで、日常に忙殺されてもう忘れかけているのだと。弟が好きだったおやつを買う時はいつも余分に買って仏壇に供えたりしていたが、見知らぬご先祖様への墓参りと同じくらいのルーチンで気軽にやっているつもりだった。

そうか。あんたは未だにそんなに悲しかったのか。毎日毎日毎日毎日、「不在」がそこにあるのを認識するたびに悲しかったのか。涙が流れないから気づかなかったよ。

そういえば、葬儀の直後に友人に「今は気が張ってるから大丈夫だけど、後で調子を崩したりするから気をつけて」とも言われたのだった。忘れてるのは「気を張る」ことの方だったようだ。

私は悲しい。自分では悲鳴を抑え切れないほど。私は頑張ろう。

この答が正しかったのかどうかわからないが、とりあえず、翌日から次第に頭の回転が戻ってきた。

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