男は女のことをとても愛していた。
女も男のことをとても愛していた。
ある日、男は女が魔王に手を引かれているところに出くわした。
「何を考えているんだ」
男は女を引き留めようとした。
魔王。
それは様々な悲しみを世界にもたらす存在だ。
身勝手に人々を自分の領域に引き擦り込み、二度と返さない。帰って来ることなどあり得ない。
病人、老人、貧しい者、紛争地域に生きる者などといった「弱者」は特に狙われやすい。
凶悪犯罪に手を貸すこともあり、その被害者は数えきれない。
唐突に永遠の別れをもたらしてしまう、理不尽で恐ろしい存在。
そんな存在なので人々は魔王を恐れ、忌んだ。
しかし魔王に魅了され自らその身を差し出してしまう者もいた。
男が愛していたはず女もその一人だった。
「これからわたし、魔王さんのところに行くの。これはわたし自身が望んでるの。ごめんなさい、男くん」
女は答えた。
「残念だったなぁ男くん。彼女は君より俺様のところにいる方がいいんだとよ」
魔王は勝ち誇ったかのように嗤った。
「そんな…… 君はこの前もあいつらに魔王のところに差し出されそうになって、それで泣いてたっていうのに」
《あいつら》。
男の言うそれは、女にとっての迫害者、差別者、いじめっ子、虐待者……
とにかくそんなような言葉が当てはまるような者たちだった。
彼らは何度も女を魔王の元へ突き出そうとし、そのたびに男は間に入って女を救った。
救っていたつもりだった。
何故「つもりだった」なんて付くんだ?
そんなの決まってる。
今まさに女が魔王のところに行きたがってるからじゃないか。
「ええ、魔王のところに行かされそうになって……わたし、本当に辛かった。そして男君はいつも助けてくれて……本当に嬉しかった」
「でもね、わたしの心の穴は男君じゃ埋められないの…… どうしようもないのよ」
「それで、俺より魔王を選ぶっていうのか?」
「ごめんなさい、こうするしかないの。魔王さんならわたしを苦しみから救ってくれるから……」
女は隣にたたずむ魔王を見上げた。
魔王は女の顔を見つめ、ほほ笑んだ。
「ああ、俺様ならお前の苦しみを終わらせることができるさ。そこの男は和らげるのが精いっぱいだったが」
「ええ…… お願い魔王さん。わたしを救って」
物書きじゃないからなにか意図があるのかは知らんけど 文末を散らすくらいのことはしたほうが良くない? い、い、い、い、だ、だ、だ、だって文末が続くからリズムの悪さもなること...