フォロワーが何万人もいて、界隈がみんなその子の独特な言葉選びや世界観を真似し始めるような、一部のオタクには強烈に嫌われるような、そんな子
美しくて、決して他人に迎合しなくて、男に媚びない色気があるのに気さくで面白くて、年齢も職業も何もわからないような、ミステリアスな子
みんなの羨望の的
平凡な私とは、何もかもが違う生き物。
決して口に出さなかったけど、私は彼女みたいな特別になりたくて、ちょっと背伸びした創作もしたし変わった内容のツイートをしてた。
でもそんなことをすればするほど余計に、自分の根っこが生まれも育ちも感性も、何もかも平凡でつまらないことを実感するばかりだった。
そしてその子は何故か、そんなはりぼてみたいな私のツイートを気に入ってくれたらしかった。
裏垢でフォローされたけど、一目でわかった。
アイコンもユーザーネームもプロフィールも、短い文章なのに彼女の色が滲み出ていた。
心臓をバクバクさせながらDMに返信したのを覚えている。
あんなにミステリアスで謎に包まれていた彼女は、案外アクティブでおしゃべりな人だった。
遊びにも旅行にもたくさん誘われた。
旅行先ではこじんまりした雰囲気のいいバーに連れて行ってもらって、美味しいお酒と美しい料理をお勧めされるがまま食べた。
そこでツイッターで彼女がしょっちゅう聞かれてははぐらかすような、彼女自身のことをたくさん話してくれた。
彼女の美しい創作にどんな意味が込められてるのか、どうやって生み出してるのか、こっそり教えてくれた。
旅行帰りのバスに揺られながら、「遊んでくれてありがとう」って小さなプレゼントをくれたりした。
「似合うと思ったの」って渡してくれたアクセサリーは、まるで私の心を読んだかのように私が欲しいと思っていたデザインのものだった。
何日も頭を悩ませながら値段的には高価なお返しを選んだけど、彼女があの時くれた嬉しさにはちっとも見合わないと思った。
一緒にラブホテルに泊まったこともある。
2人で選んだ可愛いバスボムをいれて、きゃーきゃー言いながらお互いラメだらけになった。
彼女は細くて手足が長くて美しい体型だったから、子供みたいな体型の自分が恥ずかしく、私は何か卑屈なことを言った。
対等に接してくれる彼女に失礼だと思ったからずっと我慢していた劣等感が溢れてしまって、すぐにしまった、と背筋が冷えた。
それでも彼女は「私は可愛いと思うよ」と言ってくれた。
その日はキングサイズのベッドで、2人で向かい合って眠りについた。
彼女が私に与えてくれた経験の全てが、平凡でつまらない学生の私には美しくて刺激的で夢みたいだった。
今でもちょっと信じられないくらい
彼女がなぜ私のことをあんなに気に入ってくれたのか、結局聞くことができてない。
全部過去形なのは、色々あって彼女との連絡手段だったTwitterのアカウントを消したから。
それが直接の原因ではなかったけど、彼女と並んで歩くことに強烈な劣等感が芽生え始めていたのも事実だった。
結局はたかがフォロワーだったから、アカウントを消すだけであんなに頻繁に遊んでいた私たちはすぐに赤の他人に戻った。
この間、我慢できなくて久しぶりに彼女のアカウントを覗いていた。
フォロワー数は倍くらいになってたし、相変わらずため息が出るような美しい作品を生んでいた
そして、誰とも関わらない孤高の存在だった彼女は、いつの間にか界隈の有名な人と交流を持つようになっていた。
私よりずっと才能があって面白い人たちだった。
私だけじゃなかったのか、って心がちくっとしたけど、フェードアウトするような自分にはそんな痛みを感じる権利すらない
卑怯な逃げ方をした私への恨言が出てきたらどうしよう。
恐る恐るツイートを遡っていると、「誕生日だ。」というツイートがあった。
それは私の生まれた日に投稿されたツイートだった。
嬉しかったけど、なんだかやっぱり変だと思う。
ほんとに何で、私のことを気に入ってくれたんだろう。
聞いてしまうとせっかく対等に接してくれていた彼女との関係が壊れそうな気がして、最後まで聞けなかった。
今更知る手段も信頼も、私は失ってしまった。