2010-11-23

彼は私に選択肢を与える

彼は私に選択肢を与える。自由を与える。選ぶ権利を与える。

小さい事なら例えば今日の夕食について。

大きい事なら例えば私達の将来について。

「どうする?」と聞けば「どうしたい?」と答える彼に私は困惑してしまう。

私は子供の頃、することすべてが決まっていた。

親が決めた決定事項に逆らうことは悪だったし、私自身それがとても楽だった。

あれをしなさい、これをしなさい、いついつまでに終わらせなさい。

相手からの要求をそつなくこなすのは得意だったからそれで良いと思っていた。

だから私には何かを決める権利など無いと信じて疑わず生きてきたのに、彼に会ってその世界は壊れた。

「今夜、何が食べたい?」

「君は何が食べたいの?」

漠然としていて分からない」

「じゃあ僕が選択肢を作るよ。1、トマトソースパスタ。2、焼き魚とごはん。3、外でラーメン

「3つもあるの?決められない」

「どうして?僕はその中ならどれだっていいんだよ」

「決めたら怒るでしょう?」

「怒る?どうして?」

そんな会話が毎日のように繰り返される。

一度だけ、父からの要求を断った事を思い出す。

その時、父は私を殴りワガママだと言った。お前はどうして親の言うことを素直に聞けないのだ、と真っ赤な顔で怒鳴った。

だから私は決められない。決める事は悪だから。

「君は僕とこの先どうしていきたい?」

漠然として分からない」

「じゃあ僕が選択肢を作るよ。1、ずっと一緒にいる為に結婚をする。2、お別れする」

「2つもあるの?決められない」

「決められない?じゃあ僕が決めても良いの?」

「うん。私は決められないから」

「君の人生なのに、君が決めないで良いの?」

「だって私が決めたら怒るでしょう?」

そう言うと彼はとても不思議そうな顔をして、それから少しだけ笑って、最後にはちょっと困ったような顔をした。

彼が私に与えてくれる自由を私は上手に使うことが出来ない。

食べたい物、したいこと、行きたい場所を考える事すら今まできちんとしてこなかったのに、どうしてそれらを一から構築できるものか。

自分ロボットたいだと思った。

決められたことのみ延々と繰り返すとても賢いロボット

それでも彼は毎日私に選ぶ権利選択肢を与え続けてくれている。

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