とっても不謹慎な話だけど。
下手なブラックジョークにもなっていないかもしれないけど。
切り殺された老婆。
彼女はその昔マッドサイエンティストとして名を馳せた男の"作品"としてこの世に生を受けた。
けれど彼女は男が望んだものとは程遠い、ヒトの肉体を持っていた。
大気の中で生き、成長し、そして老いる。
心を持ち、他人と話し、意思を伝え、受け取り、学ぶ。
男は危惧した。
そして決意し、決行した。
彼女の脳の機能を一部のみ停止させる。
容易いことだった。
ありふれた少女として生きた。
人並みに恋を知り、痛みを知った。
戦争が起こった。
周囲では生活が苦しくなっていった。
父親はそんな素振りを少しも見せなかった。
実際、生活は至って平凡で戦争を感じさせなかった。
家が焼けて行く。
例外など存在しなかった。
脳が動き出すのを感じた。
男が封印した一部の、そのまた一部が、再び動き出した。
戦火を逃れた。
父親を亡くした。
その奥で自分が作られたことを知った。
父親の望みを知った。
夢を持てない時代だった。
せめて父の遺志を継ごうと思った。
以来、その地下施設に篭った。
脳が少しずつ活性化して行くのを感じていた。
最初は失敗作ばかりだった。
早く肉体を成長させようとすれば、他に支障が出た。
気長にカプセルの中で育てた。
何度か続けるうち、完成形に近い"作品"が出来た。
申し分無い攻撃性を示していた。
カプセルから出れば、成長もせず傷付きもしないはずだった。
彼女は真っ直ぐに歩いた。
既に目標を定めているようだった。
生活に不可欠だった調理場へ足を向けた。
迷わずに包丁を取った。
私はまだ完成していない。
もう一度あなたが生命の危機を感じれば、脳が全て動くようになる。
早く完成させて。
生まれた瞬間に、彼女は欠陥を自覚していた。
彼女に完成形は作れない。
老婆を追った。
不完全な彼女は、老婆の目に一抹の輝きを見た。
今度は追われた。
私は、今日生まれた。