妻を迎えることを現実に想像するようになって改めて、自分の中に巣食ったこの醜怪で邪悪な化物(デーモン)に「妻」という名をつけて衆目に晒す背徳の暴挙をあえてするおぞましさに戦慄するのである。その女は美人ではないが、知的で沈着冷静でときに愛らしくときに精悍である。だが彼女は見境なく男を貪り食う性に飢えた酒乱であるだけでなく、何と言ったらいいのか、どこへ行ってもひとが築き上げてきたものを壊してくるのである。結局、ひとの夫と寝るというのもひとの家庭や貞操や信頼や愛を壊すことなのだろう。そして彼女は主に女に憎まれ、彼女自身も女を憎んでいるが、なぜか男たちは彼女を愛している。女性に対し何の興味も持たないひとりの男の妻となって以来、その女は夫の前では従順な妻でい続けてきたが、彼女が夫の不在にかこつけて他の男たちと放埓と淫蕩を繰り返すごとに彼女が自分に被せたメッキも剥がれて行ったのである。そしてそんな女を、私は今の夫から引き離して自分の妻に迎えようとしている。彼女の煽情的な容姿や言動ではなく、自分が愛しているはずの夫との関係すら自分の手で壊さずにはいられない彼女の先天的な暴力性を、私は愛しており、それをどうしても自分のものにしたいのだ。壊す力をそれゆえに愛する、この愛もまた彼女の破壊の餌食となろうとするのだろうが、彼女が壊そうとすればするほど私は彼女がいとおしくなる、この狂った愛の格闘を、私は彼女と互いのいのちが尽きるまで続けたいのだ。
いのちが尽きるまで、ねえ…。