柝の音は街の胸壁に沿つて夜どほし規則ただしく響いてゐた。それは幾回となく人人の周囲を廻り、遠い地平に夜明けを呼びながら、ますます冴えて鳴り、さまざまの方向に谺をかへしてゐた。
その夜、年若い邏卒は草の間に落ちて眠つてゐるひとつの青い星を拾つた。それはひいやりと手のひらに沁み、あたりを蛍光に染めて闇の中に彼の姿を浮ばせた。あやしんで彼が空を仰いだとき、とある星座の鍵がひとところ青い蕾を喪つてほのかに白く霞んでゐた。そこで彼はいそいで睡つてゐる星を深い麻酔から呼びさまし、蛍を放すときのやうな軽い指さきの力でそれを空へと還してやつた。星は眩ゆい光を放ち、初めは大きく揺れながら、やがては一直線に、束の間の夢のやうにもとの座に帰つてしまつた。
やがて百年が経ち、まもなく千年が経つだらう。そしてこの、この上もない正しい行ひのあとに、しかし、二度とは地上に下りてはこないだらうあの星へまで、彼は、悔恨にも似た一条の水脈のやうなものを、あとかたもない虚空の中に永く見まもつてゐた。