目先の状況をごまかすという点では、有効な手段である。現場は1マイルの深さの海底であり、マスコミの報道は海面に浮かんできた油しか、報道するネタが無い。油の比重を重たくして海面に浮かんでこなくさせる中和剤を撒き、漏出現場のライブカメラを提供して、それを止めて見せれば、キャンペーンとしては有効である。
油井には、自噴型と汲み出し型がある。テキサスで大きなポンプが回っているのは、汲み出し型油田であり、中東でガスの火を燃やしているのは、大抵が自噴型である。その井戸が自噴するかどうかは、掘ってみなければわからないが、一箇所掘って性質がわかってしまえば、その油脈に繋がる井戸は、同じ性質であると仮定して掘っても差し支えないし、自噴型でも、時間が経って圧力が抜けてくれば、汲み出し型になる。
油田において、汲み出ししすぎると、地盤低下が発生する。地下水の汲み出しすぎによる地盤低下と、同じ現象である。これを防ぐ為に、油脈の外側に井戸を掘って加圧した水を地盤に注入するといった手法が取られている井戸も、実在する。この手法をとると、井戸から汲み出す量を維持できるという副作用もある。
今回、大規模な漏出をやらかしたメキシコ湾の海底油田は、不幸なことに自噴型であった。
自噴型井戸の厄介な点は、圧力のバランスを維持しないと、パイプが破られてしまったり、周辺の地盤が壊れてしまうといったトラブルが起きる可能性が高い点にある。これを防ぐ為に、圧力をコントロールしなければならないのであるが、メキシコ湾の油田では、このコントロールが出来ない状態になっている。
圧力のバランスが狂い、地中の掘削パイプが途中で破れると、パイプの周辺から、原油の流出が発生する。キャップを被せた事で、パイプ端からの流出は押さえられるであろうが、その分だけ、パイプの内部の圧力が高くなったわけで、パイプの破れ目からパイプの外側に出て行く原油の量は増えることになる。地盤の弱いところを伝って、海底へと噴出するルートが出来次第、再び流出を始める事になる。こういった副次的流出には、キャップを被せて止めるという作業は出来ないので、パイプが破れている場所よりも深い所に、斜めに井戸を掘ってセメントを流し込んで固めて、流出を止めなければならない。注入されたセメントが漏れている場所から地盤に入り込んで固めるという狙いである。
暴噴防止装置は、こういったトラブルに発展する事を予防する為に、掘削パイプ内の圧力が規定値を維持できなくなったら、自動でパイプを封鎖して、圧力を維持するという仕組みである。圧力が一定のままで維持されていればパイプが破れるという事態は発生しない。暴噴のような事態が発生すると、パイプ内の圧力が急激に低下してしまい、周辺から掘削パイプが押しつぶされる。綺麗に潰れてくれれば良いのだが、大抵の場合、破断してしまい、その裂け目から、コントロールできない流出が発生するのである。
斜めに掘っている井戸の完成は8月という事である。それまで、キャップを被せたりせずに放置すると思っていたのだが、漏出量のあまりの多さに、キャンペーンを打たないとヤバイという事になったのであろう。セメントを流し込む井戸が完成するまで、パイプ沿いや、油井の周辺地盤からの漏出が発生しない事を祈るしかない状態である。まぁ、たとえそういう事態が発生しても、現場は1マイルの海底だから、ライブカメラ映像を差し替えてごまかすという手も、無いわけではないのだが、まさか、そんなことはしない...と、思いたい。