2009-12-02

昭和初期を生き抜いたニート 中原中也の詩



「正午 〜丸ビル風景」  中原中也

ああ十二時のサイレンだ、サイレンサイレン

ぞろぞろぞろぞろ出てくるわ、出てくるわ出てくるわ

月給取の午休み、ぷらりぷらりと手を振つて

あとからあとから出てくるわ、出てくるわ出てくるわ

大きなビルの真ッ黒い、小ッちやな小ッちやな出入口

空はひろびろ薄曇り、薄曇り、埃りも少々立っている

ひょんな眼付で見上げても、眼を落としても……

なんのおのれが桜かな、桜かな桜かな

ああ十二時のサイレンだ、サイレンサイレン

ぞろぞろぞろぞろ出てくるわ、出てくるわ出てくるわ

大きなビルの真ッ黒い、小ッちやな小ッちやな出入口

空吹く風にサイレンは、響き響きて消えてゆくかな

佐々木幹郎編「中原中也詩集『在りし日の歌』角川文庫クラシックスより)

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