2009-12-01

冬がはじまるよ

 きみの足音がすると、すぐに気付いてしまう。

 コートをはためかせて突風のように、背後からすれ違いざまに、恋する瞳で見る。あっという間にぼくの周りのものを吹き飛ばし、あぜんとするまにどこかへ行ってしまう。

 宙に舞った資料やら、メモやら、ボールペンやらをあわててかき集めて、やらなきゃと思い出す。

 なんでこんなに鬱屈していたのだろうだなんて。

 そんなことは忘れてしまう。

 声をかけられると、そういったものがどうでもよくなってしまう。

 きみは、そんなひと。

 その突風は、心が複雑骨折をしていて、ぼくが名医だとしても、この距離ではそれを治癒できない。

 じっとみて、ゆっくりと癒さなければならないはずなのに、一箇所に留まるのを嫌がる。

 だからぼくは途方にくれてしまい、しばらくいてくれれば治るのに、と悔しがる。

 それで、何ヶ月もかかって、処方箋を書いた。

 ちゃんと、全部読んでくれるだろうか。

 この魔法がすこしでも効くといいのだけど。

 これでも頑張って、長い手紙を書いたのだけど、まさかきみあてじゃないとは思っていないよね?

 寒い季節になると、誰かを包み込みたくなる。

 これは本能的な欲求で、自分は毛布かコートの生まれ変わりなんじゃないかなんて思う。

 冬生まれの人は、だれかをぎゅっと包み込んで、抱きしめてあげたい本能を持っているんじゃないか、なんて思うときがある。自分寒い季節の人だから、その寒さで震える人を見過ごすことができないのだと思う。

 心が冷える怖さを、何度も味わっているから。

 だから、そんなきみがそこにいると、抱きしめたくなる。

 師走になってしまった。

 もう、冬が始まった。

 いつのまにか季節が巡ってしまった。

 でも、冬はぼくらの季節だから、はやくはじめてしまおう。

 大好きなきみは、この冬をどう過ごしたいのかな?

 木枯らしのように吹くのが好きなのは分かる。

 でも、ぼくはきみを温めたい。

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