愛することは最大最悪の愚行だと彼女は言った。
「等身大の自分というものを確立できてないからそう言うことを口にするのよ」、と。
正直なところ、ぼくにはその言葉が真実なのかどうかが分からない。彼女の中では間違いなく真実なのだろうけれど、だからと言って全人類共通の答えにはならないだろうと思ったのだ。
そのようなことを口にしたら、今度は嘲笑を浮かべて馬鹿にされた。
「当たり前じゃない。全人類共通の答だなんて存在し得ないわよ。それともなに、あなたはその全人類共通の答ってものにあって欲しく、それに則って生きていたいわけ?」
どうしたいのか分からず黙っていると、
「呆れちゃうわね。自分のことも分からないなんて」
そう言って、彼女はぼくの部屋を出て行った。後腐れを残す間もないくらいにすっきりとした別れ方だった。
彼女と交わった湿気が残るベッドを尻目に、ぼくはベランダに出て煙草に火をつけた。開け始めた夜に、立ち昇る紫煙はよく似合う。これで朝日を拝めたのならば、少なくとも半年近く冷蔵庫の中で忘れ去られていた人参ほどに萎れた気持ちが洗われたはずだったのだけれど、生憎今日は雨だった。
青灰色に染まった雨雲は、しとしとと染み込むかのような小雨を落とし続けている。服はもちろんのこと、肌にも髪の毛にも、湿気が纏わり付いているような天気だった。
遠くの空では早起きの烏が朝を告げている。都市では、一番早起きなのが烏なのだ。他の生き物はまだ眠りについているか、あるいは夜更かしをした奴らしか残っていない。
ふぅ、と、勢いよく煙を空に吐き出してやった。当然のことながら空にまで届くはずもなく、煙はぼくの目の前で霧消していく。
「あなたは愛することが幸せだと思っている。自分が愛してやればその人は幸せなんだと信じきっている」
目尻に涙を浮かべながら彼女は言った。
「蜜を与えていればいつまでも懐いているだろうだなんて思わないで」
ぼくは間違えたのだろうか。彼女が望むことは何でも叶えてきたつもりだったのに。彼女が嫌な思いをしないよう、どんな時でも、どんなことにでも対応できるように準備を怠らなかったのに。
どうしてぼくは彼女を泣かせてしまったのだろうか。追い詰めてしまったのだろうか。
紫煙を肺の中一杯に吸い込む。短くなった煙草は赤く燃え上がりながら灰を長くさせていく。
彼女は無事、家に着けただろうか。夜道をひとりで帰って危険ではなかっただろうか。嫌がられたとしても、追いかけるべきだったのだろうか。
ぼくは何をしたらよかったのだろう。
答が見つからないまま、煙草だけが短くなっていく。心なしか青色に染まった街並みは静かで、ぼく以外に誰も息をしていないように思えた。
・テーマ性の欠如
・結論が不透明
・その他諸々でいろいろと駄目
結論
・駄文