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生化学 第80巻 第8号
ばいお・ふぉーらむ
大学院生を惹きつけるには?
大学院で博士課程の定員割れが起こっていることが最近ニュースとして取り上げられた。特に理系学部において目立つ現象とのことである。その背景には、学位取得者の進路が必ずしも芳しくないという情報が広まっていることがある。例えば「ポスドク」というキーワードをGoogleで検索してみると、上位に来るページにはネガティブな印象を与えるものが多い。充実した情報を提供するサイトも一部にあるものの、「高学歴ワーキングプア」という用語に代表されるような博士の将来について不安をあおるサイトや、自らの不遇を嘆くポスドクによって維持されていると思しき掲示板などもたくさん見つかる。労働集約的な生物系の一面を揶揄したものと思われるが、「ピペド(ピペット奴隷などの略)」という酷い表現もネット上ではそれなりに普及している。こうした場では、捏造問題に対する怒りや、情実人事の噂などもあふれている。ほぼ全て匿名記事であるから、真偽のレベルも様々である。生命科学の輝きに憧れて研究室に入ってきた学生が、はじめてこうした情報に出会った際に何を感じるかを想像すると、きわめて残念なことである。
「ポスドク1万人計画」のような国策の話題は取り扱うには大きすぎるので、生科学研究の分野に意欲的で優れた大学院生を惹きつけるためのプランを考えてみたい。ネット情報くらいで石がぐらつくような大学院生は不要とか、研究は呼び込んでやってもらうものではないという強面(こわもて)の意見もしばしば耳にするが、優れた研究者の全てが最初から一直線に博士を目指していたわけではないことを考えれば、間口を広げるための努力は学生、研究者双方にメリットがあるはずである。いつの間にか夢中になっていたというエピソードは多くの研究者の語ることである。現代の生化学は素材としては若者をひきつける十分な魅力を持っている。問題は周辺のノイズが大きすぎることである。
情報公開を進める:ネット情報はもちろんであるが、いわゆる口コミの噂のレベルにおいても博士のネガティブイメージは強い。実際問題として、曖昧な情報や噂のせいで何となく進学を断念している大学院生もかなりの数に上るだろう。学位取得者の進路や意識を調査し、公表することが、進学者の質、量の改善につながるように思う。現状は、そうした情報が入手できないことが事態をさらに悪化させている。また、学位を取得した卒業生と現役院生が接触する場を設けて、率直な意見交換を行ってみれば、より具体的なイメージをもって進学できるのではないだろうか。
生化学の魅力を発信する:生化学研究の魅力を「語る」人と出会う機会が減少している。学会シンポジウムはアカデミックであるが、外連味あふれる「語り」を開く場所ではない。研究室内でも、教員は別の用事で忙しく、博士課程の大学院生は自分のことで精一杯で、「語る」研究者は総じて減少しつつあるように思われる。例えば、生化学会員の人気投票で、熱い注目を集めているテーマ、あるいはノリにのっている研究者を選び、発表者には大学院生へのアピールを意識しながら講演してもらう規格は実現できないだろうか。研究者の「肉声」を聞く機会として貴重なものとなりそうである。自らの研究を面白いと確信している研究者の話はたいてい魅力的で、インパクトがある。(ST)
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自らの研究を面白いと確信している研究者の話はたいてい魅力的で、インパクトがある。 生存バイアスかかりまくりのサンプリングして何の意味があるのか疑問だな。