2009-08-08

自分自分がわからない件

彼と初めて会ったとき、私は

「世の中にはこれほど自分理想にどストライクな外見の男性がいたのか」

と激しい衝撃を受けた。

世間一般でいうところのハンサムとは微妙に違うのだが、私の好みのど真ん中を剛速球で貫く顔。顔だけじゃなくて体型も声も、服のセンスも。

知り合ってみると、彼の性格も非常に好ましかった。気持ちがとても優しくて、さりげない心配りが出来て、礼儀正しく、誠実で聡明な人だった。

センスが良くて能力があって、いろんなことを率なく器用にこなせるのに、驚くほど謙虚で控えめ。

彼のことがわかればわかるほど、「世の中にはこんなに素晴らしく好ましい人がいるのだなあ」と私の驚きと好意は深まった。

彼女持ちであることは知っていたので、私は恋に落ちなかった。ただ、この人と付き合っている人はうらやましいなあ、とちょっとだけ思っていた。

その後、多少の月日が流れ、ばらばらに生活していた彼と私は、なんとなく再会した。

彼のかっこよさ、好ましさは変わらなかった。というよりもむしろ成長した分、より素敵な人になっていた。

私たちはたまたま二人とも恋人がいなかった。だからなのかなんなのか、私たちは何度か一緒に食事に行った。

私たちは以前よりも親しくなった。

私の心の中に多少の期待がなかったと言えば、嘘になる。

彼ほど私の理想に近い男性は、いなかった。おそらくこれからもこんな男性には会えないだろう、とも思った。

こういう男性恋人同士になれたら、本当に素晴らしいよなあ、とはよく考えた。

しかし、依然として私のその思いは、夢想の域を出なかった。何度も一緒に出かけて、スカイプメッセで毎晩のように話をして、どんどん親しくなったのに、私は自分が彼の恋人になれるかもしれないということを、あまりリアルにとらえることが出来ていなかったのだ。

ある晩、私は呆然と部屋の真ん中に座り込んでいた。

その日、仕事が終わった後の彼が、私の部屋に泊まりに来ることになったのである。ふと気がついたらそんなことになっていたのだ。

ふと気がついたらというのも、思えばあんまりな言い草である。そもそも彼が長距離通勤を苦にしていることを知った私が、「帰りが遅くてたいへんなときはうちを使っていいよ」と先に言ったんだから。

しかも別にそのときの私は、少女のように無邪気だったわけでもなんでもなく、ちゃんとそれなりの意図があって言ったんだから。

言われた後、彼は嬉しそうに笑ったんだから。そりゃ来るだろうよ。

めでたいじゃないか。喜べ自分

なのに私は、喜べなかった。自分が喜んでいないことに気づいて、それがすごくショックだった。

そして私は、そのとき唐突に、自分が彼に恋していないことに気づいたのだ。

彼のことは本当に素晴らしい人だと思っていて、好ましく感じていて、これほど素晴らしい男性にはもう二度と会えないだろうなとまで確信しているのに、一緒にいるときはいつもちょっとときめいているというのに、でもなぜか私は彼に恋していない!

私は完全にパニックを起こしていた。一体なに言ってやがんだこの女、と自分のことを殴りつけたい気持ちでいっぱいだった。

その晩私は、ベッドを彼に譲って隣の部屋に客用布団を敷いて、自分はそこで寝た。

彼はちょっとびっくりしたような顔をしていたが、そりゃびっくりして当たり前なんだが、なにしろ控えめで優しい紳士であるので、そのまま一人でベッドに寝てくれた。

二人の間には何事も起こらなかった。もうどっちもそれなりにいい歳した大人だというのに。この話を知った友人は驚いてのけぞっていた。無理もない話だ。

更に驚くべきことに、そのような清らかな夜は、その後二度ほど繰り返された。

そしてそのまま私たちは恋に落ちず、終わった。

原因は主に私である。

彼は一度「一体ぼくのことどう思っていますか」的なことを聞いてきたんだが、私も自分が彼をどう思っているのか、まるでわからなかった。

その後、主に彼が出来た人格の持ち主であったがために、私たちはゆるやかに友人に戻った。

しかし、その間も私はずっとパニック状態だった。

私は何を考えているんだろう。彼の何が不満なんだろう。いやもう全然不満はない、ほんとにない。だったらなんで彼に恋しないんだろう。

彼と一緒に居ると、いつも楽しくて優しい気持ちになれるのに。ちょっとどきどきもするのに。だから私は自分が彼に恋をしていると思っていたのに。

でもなんだかそれは違うらしい、かといって何が違うのかわからない、これは一体、どういうことなの!? ああ申し訳ない、とにかく彼に申し訳ない。

そんな考えが延々と頭の中を回り続けた。

それから更に数年ほど経って今現在

彼と私は、ふとしたことでまた行動を共にすることが多くなった。やはり未だに彼はかっこよく、優しく、私は彼といると楽しい

期待する気持ちはさすがにない。自分は彼に対してそれなりに酷いことをしてしまったと思うし、未だに申し訳ないと思っている。

ただあの時頭の中を回り続けた疑問だけは、未だに残っている。彼の顔を見るたびに、その疑問が蘇って、不可解な気持ちになる。

どうして私は彼に恋しなかったのだろう。恋できなかったのだろう。私は自分自身の心が、本当に理解不能だ。

頼む、ほんとに誰か、私にその答えを教えてくれ。

追記

その後、もしかしてこれが答えかもしれない、と思うものを見つけたような気がする。

ありがとうございました。

http://anond.hatelabo.jp/20090810110059

記事への反応 -
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