1年生の頃から、周りからは決定的に浮いている女の子がいた。
一番の理由は、彼女の異様な姿。
まず、考えられないほどの臭気をいつも漂わせていた。ぼろぼろのホームレスが発しているような。
顔も体も真っ黒に汚れていて、髪はボサボサで脂やフケもこびりついていた。よれて色あせた服。
背はどちらかといえば高い方だったのに、体は痩せこけて、目がやけにギラギラ大きく光っていた。
プールの授業で水着に着替えると体に密着するはずの布には隙間ができて、あばら骨が出ているのがよく分かった。
歩き方も変だった。なぜかお尻を突き出すようにしてひょこひょこ歩く。
成績は常に最下位だった。6年生になっても1年生の計算が満足にできたかどうか。他の子どもたちとの会話も噛み合ない。
昔の事なのであまりよく覚えていないが、よくあるバイ菌ごっこ(?)もあるし、暴力を振るう男子もいたり、みんなで無視したり。
だけど子どもたちなりにも自浄作用があるのと先生の働きかけによって、一時的にはやっぱりこの状況は良くない、仲間に入れようというような雰囲気になることも時々あった。
それで彼女を遊びに誘ったりするようにはなるんだけど、一緒に遊ぼうにもやはりそれまでいじめられていれば心を開きにくくなっているし、話もいまいち通じない。
それ以上に臭いがみんな我慢出来ず、彼女と長い時間を過ごすのが苦痛になり離れていく。
そしてまたいじめが始まる、という繰り返しだった。
「悪い事すると、バット持ってきて殴られるんだって」「えー、怖いね!」
時々彼女の体には、大きな痣ができていた。
今になって、あの子は間違いなく親から虐待されていたと思う。
自分も含めて、虐待という概念のある子どもたちはいなかっただろう。
だからといって当時自分も含めみんながそれを理解していたなら、小学生なりに何かできることはあったんだろうか。
家庭で苦しんでいたであろう彼女が、せめて学校では安心でいられたんだろうか。
それから先生たちが何もしていなかったとは思わないけど、彼女にも私たちにも、もう少しケアできたんじゃないだろうか。
もちろん過去には戻れないし、彼女を傷つけていたという事実も消えない。
申し訳ないと思うし、無知だったので仕方ない、と自分に言い訳する気持ちもある。
彼女はどんな大人になったのだろう。