再び教室である。
「さっきのを見ての通り、何故かあいつはモテる。なんせツラが………」
そこで言いよどむな。事実を真摯に受け止めちまえ。
「…………あー…………ツラ“は”いいしな。見た目はともかく」
妥協点を見出しやがったコイツ。
「おまけにアレなのにスポーツ万能で、成績もどちらかといえば優秀なんだ。
ちょっとばかし変人でも、黙って立ってりゃそんなことわかんねぇし……」
「それにも、何かエピソードがあるの?」
「一時期は、ちぎっては投げちぎっては投げ、てやつだったな」
ちょっと待て。“とっかえひっかえ”なら分かるが何故に“ちぎっては投げ”なんだ。
「いわゆる『私に勝ったら付き合ってやる』理論だな。さっきのもそれ」
月刊誌でもそんなのがあったな。つきあってよ! みたいな。
「そいつぁ知らねえ。とにかく、対決方法は……まあなんとなく見当はつくだろ。
俺が知る限り、一番長く続いて30秒。最短は……さっきのだな。5秒無かっただろ、アレ」
ああ、まさに瞬殺だった。
「そんなわけで、過去にぶん投げられた男は数知れず。中には涼宮山に――」
その瞬間だ。
「ぃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………」どぱぁん。
またかよ。
呆れつつ窓から身を乗り出し、悲痛な叫びと激しい水音が聞こえてきた方向を見ると、だな。
まあなんというか見事に――佐清がそこにいた。
あれほどベタな突っ込み方をしていることにある種の羨ましさを感じるような気がしないこともない。いや突っ込まれたくないが。
その後方、プールサイドに仁王立ちしているのはもちろんハルヒで、
大鐘音もびっくりの音量でそう叫んだのだった。
「――あの台詞を言われた奴もいたとさ」
「………………ねえ」
疑いの視線で谷口を見る。
「ぁ? ……! っ、聞いた話だってマジで! 何でか知らねえけど、勝負を申し込まれて断るということをしないんだよアイツは!」
情報を持ちすぎている、とはツッコむまい。もう面倒だ。
「だから! お前が変な気を起こす前に言っといてやる」
そう言うと谷口は、ふ、と息をつき。
「――やめとけ、マジで」
それはさっき聞いたっての。
やめとくもなにも、そんな気は無いんだがな。