いつか、拙著にも書いたが、アメリカ人の子供のない夫婦が広州に赤ちゃんを「買い」に来る。斡旋するエージェントが米中双方にあり、面談場所は広東省広州市にある最高級ホテルの一つ「ホワイトスワン」。
噂には聞いていたが昨年春、実際のこのホテルで朝飯をとっているときに、カフェ・ラウンジで目撃した。
禿頭のアメリカ人男性(白人)と、やや太り気味で眼鏡の奥さんが、“商談”のまとまった赤ちゃんを抱えて嬉しそうにしている。
緊張のためか、恐怖なのか、赤ちゃんは泣かない。隣席には「遣り手婆」のような代理店の女性が法的手続きをアメリカ人夫妻に説明し関係書類を並べていた。
親元に支払われる相場は5000ドル。エージェントへの費用は別。
米国に貰われていくのは幸運であり、養子縁組だから合法である。
悲運は誘拐である。
顧客は海外ではない。中国の農村や近郊の都市で、赤子から十三、十四歳の少年少女など、毎年平均2500名の子供が「専門誘拐集団」のプロ、ギャングなどにさらわれる。発見例はほとんど無く、警察が本気で捜査しようともしない。身代金目当ての誘拐も頻発している。
第一は都市部で生活する子供のない夫婦からの需要が旺盛である。
逆に農村部では男の子供を猛烈に欲しがる。第貳子までは常識だが、それでも男の子が産まれないと、つい手を出す。なぜなら第三子を罰金を払ってでも産む場合は、5800ドル。それなら誘拐してきたほうが手っ取り早いのだ。相場は2500ドルという。
第二は少女売春に売られるケース。「人さらい」らはクルマで近づいてさっと誘拐するので、神隠しにあったような騒ぎとなる。ギャングらは少女を売春窟に売り飛ばし、或いは少年たちは身体障害にして街頭での乞食をやらせる。
実際に昨年に発覚した山西省の煉瓦工場は、誘拐された少年たちが過酷な労働を強いられていて世界的な非難をあびた。
ヘラルトトリビュン(4月6日付け)の報告では、誘拐ビジネスのセンターは香港の北燐=深センにあり、あたかも企業のように誘拐ビジネス盛業中という。