SPAN証拠金制度とは、CME(Chicago Mercantile Exchange)が1988年に始めた取り引き証拠金の見積もり方式である。
SPAN証拠金制度では、翌日の相場の展開を16通りに分類し、この分類のうちの一番リスクが大きくなる展開の時に必要になる証拠金を算出するとなっている。この16通りのうちのどれが選ばれるかは、先物とオプションの買い建て・売り建ての残高状況と、翌週の相場の展開予想の組み合わせによって決まる。その組み合わせは、先物の買い残が多い状態で、オプションの買い残が多い状態と売り残が多い状態。先物の売り残が多い状態で、オプションの買い残が多い状態と売り残が多い状態、これで4通りの残高状況。さらに、先物が売られ、オプションも売られる場合。先物が売られ、オプションが買われる場合。先物が買われ、オプションも買われる場合。先物が買われ、オプションが売られる場合で、翌日の相場展開が4パターンである。この4パターン同士の掛け算で16パターンとなる。したがって、どのパターンが選ばれるかは、その日の残高が確定するまでわからないとなる。さらに、翌週の相場の予想の幅は、異なる期間の過去数週間の変動幅の中から1位と2位を選び出し、いずれか大きい方を選ぶとなっている為に、ストップ値が期間一杯続いた値が理論上の最大値になるが、今の所、そのような激しい展開は無いので、安定的に見えるとなっている。つまり、変動期があったり、それから遠ざかると、その基準日が変わる日に、がくんと値が飛ぶ可能性もある。
これらを勘案すると、この制度で予想される最大損失は、過去のデータに依存しており、何か起きた時の急変を予測できるわけではないという事になる。統計的に正しい値ではあるが、その正しさは統計という、無責任な立場での正しさであって、現実にお金をやり取りしている鉄火場の正しさとは筋が違う。
予想される証拠金額は、最大でストップ値まで動いた日が一週間以上続いた場合の変動で、それ以外のケースの場合、いずれも安くなることから、必要証拠金の額が減り、建て玉が証拠金不足を理由に処分されにくくなるし、同じ証拠金でより多くのポジションを持てるようになるという制度である。
実際、SPAN証拠金制度を導入してからCMEにおける投機的取り引きは増加し、アメリカのバブルを形成する一つの道具となった。
現物相場における買占め売り惜しみのリスクを回避する為に先物相場を作った。先物相場における、現受けを拒んで差金決済にされた時に、手持ちの現物を市場で投げ売りをしなければならなくなるリスクを回避する為に、オプション相場を作った。
オプション相場と先物相場が投機資金によって動かされるようになると、清算局面において相手方が破産していて清算不能になるという、カウンターパーティリスクが浮上し、それを回避する為に、CDSが出てきた。
そうやって、リスクを減らす為に、新しい制度が導入されてきたのが、金融市場の進歩の歴史である。そういう観点から見ると、SPAN証拠金制度は、金融市場の進歩の歴史の正嫡とは言えない。
値動きの激しい局面において、証拠金所要額が引き上げられる事から、投げ売りが増加すると同時に新規の買いが抑制されて暴落がとまらなくなったり、踏み上げ買いが殺到して非常識な金額まで相場が一本調子で上がってしまうといった、値動きが激しくなるという欠点が表面化しているというのに、わざわざこの制度を導入するのは、どうにも理解できない。