知人に一人、占いとか幽霊に親和性の高い人がいて、ベッドの配置についてこんなことを言っていた。
「北枕って良くないって言うけど、本当は良いんだって」
(その知人を含む)何人かが相次いで引越しをした頃だったので、間取りや家具配置について話していた流れで出てきた言葉である。
北枕が良くないというのは、死者を北枕に寝かせる習慣からきている。「良くない」というより「縁起が悪い」と呼ぶ方がしっくりくるのはそのせいだろう。形態の類似は性質の類似を呼ぶ。あるいは単に死を想起させる。仏教の習慣を基にした類感呪術である。ちなみに死者を北枕にするのは、ざっくり言ってお釈迦様が死んだときそうだった(頭北面西)から。
知人曰く「南はパワーをもらえる方角。休むべき就寝時にはその方角に頭を向けるのは良くない」。南の反対である北に頭を向けて寝るのが、つまり良いということである。風水学は昔からあったが、「家庭内の運気を高める方法」として一般化したのは、ここ15年ほど最近である。また、但しがなく言い切っているところを見ると、知人が持っているのはいわゆる「ニューエイジ風水」の知識であると推測できる。
一般に「本当は」は、隠されていた事実が明らかになったなどの理由によって、同じ視点からの見え方が変わった場合にのみ使用される(ゴムって茶色いって言われてたけど本当は黄色かったんだって!)。視点が複数ある場合、どちらをより重要視するか選択することはできるが、選ばなかった見え方が無効になるわけではない(ハーゲンダッツって美味しいけどカロリー高いよ!)。「北枕は良くない」は宗教習慣についての呪術であり、「北枕は良い」は風水学に基くとされている。二つは別の体系に属する視点であり、風水を取り入れたからといって「縁起が悪くなくなる」ということはない。このケースでは、今までとは異なる視点が明らかになっただけであり、「本当は」と形容するには相応しくないと考えられる。
では何故、知人は「本当は」という言葉を使ったのか。
たぶん、「縁起が悪い(呪術)」と「風水(占い?)」を区別していないのでしょう。「北枕が良い」という情報に接したとき、その発信者が「北枕は悪いとされているが、」なんてことを言っていたのかもしれません。でもそれは「本当は」ではなく「風水では」だったはず(いくらニューエイジであっても、きちんとした人なら)。神社にパワーストーン御籤があり、寺社の御籤に血液型別相性が書かれている時代なので、一般市民がそのへんを区別してなくても不思議ではないのだけれど。
分けないんだなあ、と私が感じたというだけで、どうということはないのですが、カジュアル・ビリーバー(?)の考え方のひとつの例として。