朝の弱い君がうんうん言いながら起きてくるまでにコーヒーを沸かす。
君はもそもそパンを食べて化粧をする。そのあと軽く掃除機をかけている。
帰りはだいたい君の方が早い。というか僕が遅すぎる。
玄関を開けるといつもあたたかい食べ物のにおいがする。
ときどき君は疲れ果てて洗濯機のボタンだけ押して行き倒れたように寝入っていることがある。
そうっと毛布をかけて、ご飯を炊く。
大した料理はできない。今、教えてもらっているところだけど、とりあえず君が僕のために買い込んでるCookDoで何か作る。冷蔵庫はいつもなんかものが入っている。ありがたい。
作ってる音で君が起きてきてわーわー言いながらスープを作る。必ず一品はスープ。そう決めてるらしい。
ご飯を作った方が洗濯物を干して、作らなかった方が洗い物をする。
喧嘩はしない。いや、ときどきする。たぶんしてる。違う話に気付いたらなってたりするけどしてることにする。些細なことでよく怒られる。僕もいらっとしてなんかいうこともある。
あとに入った方が風呂の掃除をする。君は一番風呂が嫌いだからとか言って腰が重いからいつも先に入ってる。僕だって一番風呂は嫌いだ。たまには後に入らせろ。
昨日はとても夜が遅かったから君は先に寝ていた。
鍋にあったスープを温めて飲んだ。あたたかかった。いつものちょっとこしょう入れすぎのスープだった。おいしかった。
風呂はそんなに冷めてなかった。一体何時まで起きてたんだ。ほんとに風呂が嫌いすぎる。
不安要素だらけで先の見通しが立たなくて、何度もいいかけてはやめた言葉を君はただ微笑んで待ってた。いつ言うのかなと思ってた、と後で笑ってた。でも怖かったんだ。何となくいろいろなものが漠然と怖かった。その気持ちも正直に伝えたら、知ってると君は僕の手を握った。いつもは冷たい君の手があたたかかった。
僕が消えて四カ月がたった。
二人の生活を探って毎日生きてる。覗き込んでいた瞳の代わりに、二人で見る世界を探してる。
僕が消えて、僕と君になった。