「ナーガス」
コンビニでサンデーとアメリカンドッグを購入しようとレジについた私は、突然耳慣れない言葉を受けて顔を上げた。
レジの店員だった。
ちょうど、サンデーをレジに出して、アメリカンドッグを追加注文しようと保温ケースの方を向いていたところへの「ナーガス」だった。
ナーガス?
しばし店員と顔を見合わせた。店員は、35歳前後の細身長身の男性。どことなく落ち着きが無い。
もう一度店員が言った。
「ナーガス」
そこで気が付いた。彼は、値段を告げていたのだ。
サンデーは250円。「にひゃくごじゅうえんです。」が、早口すぎて「なーがす」と聞こえたのだ。
「あ、すいません、あと、アメリカンドッグ1つ、お願いします。」
私が追加注文すると、一瞬、眉をしかめてから、さも忙しそうにアメリカンドッグを掴んで紙袋に入れると、サンデーと並べて置いた。
「サーガス」
レジのディスプレイを見ると、「355円」と書いてあったので、405円を渡す。
「ウータッ」
そう言いながら私の手の中に50円を押し込む。
・・・。
ところであの、レジ袋には入れてくれないのですか?
レシートはもう、別にいいんだけど。
もはや店員はこちらと目を合わせていない。その様子が不自然で、たぶんこれは「袋入れてもらえますか?」といわれるのを避ける為の彼なりの工夫なのだろう。
しょうがないのでアメリカンドッグの袋とサンデーを手に持って、コンビニを出た。
夜11時。風が冷たい。
あの店員、どう見てもバイトだったな・・・まさか店長ということはあるまい。35歳前後でこの時間帯にコンビニでバイトか・・・。
最近、たまにそういうのを見かける。
共通しているのが、「いかにも世渡り下手そう」という印象の、35歳ー40歳前後の男性という特徴だ。
早口、無愛想、機転の利かなさ、自己中心さ・・・それではこれまでの就職先でも大変だったろうに。
いったいこれから先の長い人生、どうやって乗り切っていくのだろう?
彼の今後を少しだけ考えたが、答えが見つからず、考えるのをやめた。