自分に不思議な力があることに気がついたのは、まだ僕が幼い時だった。
この頃、体の弱かった僕は入退院を繰り返していた。
ある時、ふと隣のベッドで体を起こして談笑していた少年の頭の上に白く光る輪っかが見えた。
程なくして、少年が亡くなった。
それからも、度々病室でその輪っかを見て、同時に人の死を目撃した。
ちょうど一時間後にきまって死は訪れた。
僕が僕であるというその一点だけで溺愛してくれていたおじいちゃんが病に倒れたのは僕が4年生になったばかりの春だった。
僕は毎日のようにお見舞いに連れていくように母にねだり、おじいちゃんは、毎日のようにやってくる僕をこれ以上ない笑みを浮かべて迎えた。
けれども、いつの日かおじいちゃんに会いに行くのも飽きてしまい、足が遠のいていった。
おじいちゃんのいない生活にすっかり慣れてしまった。
おじいちゃんが危ない、と聞かされたのは、もうおじいちゃんの存在を忘れかけていた頃だった。
病院に向かっている間、嫌で嫌で仕方なかった。
自分が看病に行かなくなった罪悪感を転嫁し、こんな思いをさせるおじいちゃんの存在に憤りさえ感じていた。
僕は、父の足の影に隠れるようにして病室に入った。
おじいちゃんは首を傾けて、僕らの姿を目で追った。
そして、僕の顔を見ると、目を大きく見開いた。
おじいちゃんは、大きく身体を起こすと以前と変わらない、これ以上ない笑みで迎えてくれた。
おじいちゃんは想像していたよりはずっと元気そうに僕に話しかけた。
もちろん、かなり無理をしていたんだろう。
僕はさっき感じていた罪悪感など吹き飛んで幸福な時間を満喫していた。
また毎日ここに来よう、そう思った。
けれども、それは不意に訪れた。
おじいちゃんが父に「お前、腹が出てきたんじゃないか?」と話しかけた時だった。
おじいちゃんの頭上に白い輪っかが見えた。
父は自分のシャツをめくりあげ「そんなことないよ」と言い、母が「やだ、こんな所で出さないで」と笑っていた。
僕の目から涙があふれだした。
3人の会話はもう聞こえなくなった。
おじいちゃんが真っ先に僕の異変に気づき、「どうしたんだ?」と心配そうに覗きこんだが、僕は「嫌だ、嫌だ」と泣き叫ぶことしかできなかった。
おじいちゃんはそんな僕を抱きよせ「大丈夫、大丈夫」と優しく笑っていた。
ちょうど一時間後、おじいちゃんは息を引き取った。
その時、僕は泣き疲れて、おじいちゃんの肩に身体を寄せて眠っていた。