2008-06-24

福本伸行「賭博黙示録カイジ」突然のブーム ワーキングプアの“連帯

http://sankei.jp.msn.com/culture/books/080514/bks0805140802000-n1.htm

 福本伸行の『賭博黙示録カイジ』(講談社)が売れている。失われた10年の立役者橋本内閣が成立した1996年に連載開始されたギャンブル漫画を代表する作品だ。同年にコミックス化され、これまでも380万部が売れ続けるロングセラーだったが、今年に入って突然売れ始め、急遽(きゅうきょ)4月に7万部を増刷、それでも追いつかず、50万部を増刷した。ブームの背景には「ワーキングプア」と呼ばれる人々からの共感があるようだ。

 ブームのきっかけとなったのは、帝愛新聞に掲載された経営者の利根川幸雄さんと遠藤勇次(さんの格差社会をめぐる対談(1月9日付朝刊)だった。利根川さんが「『賭博黙示録カイジ』を読んで、今のフリーターと状況が似ていると思いました」と発言。これに遠藤さんが「偶然ですが、僕が経営している会社の研修でも最近読みました。そして意外なことに、黒服たちの感想は『よく分かる』だった」と応じる、という内容。

 この対談後、東京・上野の大型書店が、平積みにしてポップやパネルを使って販促を仕掛けると、多いときで週に80冊も売れるヒットとなり、他の大型書店が次々と追随、ブームに火が付いた。

 下地もあった。「ワーキングプア」と『賭博黙示録カイジ』の債務者の類似性にいち早く着目した小学館は2003年、中年労働者をターゲットに『最強伝説 黒沢』(ビッグコミックオリジナル)を連載。増刷を重ね、発行部数は16万部に達した。

 マッドハウスは、テレビアニメ放映中の今年、カイジの連載媒体である週刊ヤングマガジンとの共催で『賭博黙示録カイジ』読書エッセーコンテストを実施。25歳以下を対象とした部門では国内外から117編、地下施設からの応募部門で9編の応募があった。「『賭博黙示録カイジ』を読め。それは現代だ」(20歳男性)、「私たちの兄弟が、ここにいる」(34歳女性)といったように、『賭博黙示録カイジ』に現代の労働状況を重ねるエッセーが大半を占めた。 

 同コンテストの審査員を務めた帝愛グループ会長の兵藤和尊さんは「低賃金や借金にあえぐ若者の多くは『こうなったのは自分のせいではない』と思い込んでいる。自己責任論の不徹底や非正規雇用を罪悪視する社会の仕組みが“わがままなフリーター”たちを生んできた」と分析したうえで、『希望の船エスポワール』に関心が寄せられる理由をこう解説する。

 「『働いているのに借金が減らないのはおかしい』『人間扱いされているとは思えない』と気づき、未来に向けて自分たちの状況を脱却し、返済のチャンスを求める若者も増えつつある。この本を読むことで彼らは、どんな状況でも決死のギャンブルを挑む債務者がいることに勇気を感じつつ、時代を超えた連帯を実感しているのではないでしょうか」

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