2008-04-16

なんともいえない話

ある晩、携帯電話に見知らぬ番号の電話がかかってきた。ちょうど飲み会最中だった僕は、ややまわらない頭で出ると、声は高校時代の友人Oだった。5年くらい前に、古い携帯電話がかかってきて以来だけど、当時の携帯はもう手元にないので、番号では誰だかわからなかった。

このOという友人、よく言えばノリがよいのだが、それが空回りするタイプで、かつ押し付けがましく強引なので、最初はそれなりに友人が多くできるものの、わりと縁遠くなりやすいタイプ。僕も縁が遠くなれば、まあ、それでかまわないといったところ。

とはいえ、せっかく電話してきてくれたんだから無下にすることもできず、とりあえず話に少しつきあった。

Oは今、実家のある福岡飲食店経営しているという。久々に東京に戻ってきたんで、わざわざ僕の実家電話をかけて、携帯の番号を教えてもらってかけてきたとのこと。

飲食店経営は大変らしいが、なんとか軌道にのってきたとのこと。福岡に来たら遊びに来いと。で、久々に東京でゆっくりしているので、暇があれば会えないかと言う。そのときは飲み会中だったので、頭も回らず、ああ、そうだな、じゃあ、ちょっと今、飲み会中だから、またかけなおしてくれとか言って切った。それが、一週間くらい前の話。

昨日の晩、僕が会社から駅まで歩いているとき、電話がかかってきた。Oだった。

今週か来週かでどっか飲みにいけないかと。

僕はここんところ、それほど忙しいわけでもなく、飲み会時間くらいはつくれる状況だったものの、なんとなく気が進まず、適当に話をつけて来週あたりで、時間が見繕えたら電話すると言って電話を切った。

そして、今日、お昼にOからまた電話があった(携帯の番号はいい加減、登録した)

なんか、あわてている。

僕もちょっと手が離せない状況にあったので、10分後にかけなおしたら、なんとも衝撃の告白。

今、羽田空港にいるらしく、なんでも急な用で福岡に戻らなければならないと。そしたら、バッグが置き引きにあって、パソコンから財布から一切合財を盗まれたとのこと。たまたま手元に持っていた通帳と携帯電話はあるものの、非常に困っているらしい。

今、空港警察事情説明をして、一段落ついたので電話したと。なんか、マスコミも来るくらいのけっこうな大騒ぎになってるとか。

でもって、飛行機チケットはあるもののそこから先の交通費はない。それに加えて、なんか、お店のためにお金を使わないといけないのだが、その金もない。ちょっとでいいから貸してくれないかと。利子を付けてすぐに返すし、なんなら、実家の方に連絡をとってくれてもかまわないとのこと。警察なんかはけちだから金を貸してくれないという。

なんか、あわてているけど、話のロジックに穴がある気がしてならない。とはいえ、こっちもリアルタイム電話中なので、どこにどういう穴があるかが頭がちゃんとまわらない。

で、いくらどうすればいいのと訊くと、マッツ(彼の僕への呼び名)も、結婚して金が無いのはわかる。すぐ返すから、いくらでもいいから貸してほしいと。

そうとう怪しい。

とりあえず、予防線を貼るために、僕も給料はほとんど預けてしまっていて、自由に使えるのは多くて、数万円だと答える。

そしたら、彼の声は一気にトーンダウンするが、いやそれでもかまわないから、貸してほしいと言う。じゃあ、どうすればいい? 金を持って羽田まで行くかと訊くと、いや、かろうじて個人用の口座が1個生きている、ただ、この口座はカードが手元にないのと、情けないけど残高があまりないので、今は下ろせない。こっちに振り込んでくれ。福岡についたら、すぐ戻すと。

で、口座を教えてもらい、僕も返金のための口座を教える。

じゃあ、できればすぐにでも振り込んでほしいと言って、いったん電話を切る。

なんか、怪しい。振込みってだけですでに怪しい。

ってことで、とりあえず、自分のデスクに戻って羽田空港総合案内の番号をしらべて電話して、空港警察電話番号を聞きかけてみる。

あのー、僕の友人から電話があって、そちらの空港で置き引きだかひったくりだかにあって、困っているので金を貸してほしいと連絡があったんですよ、で、ちょっと連絡を取ろうと思ったら、携帯の電源がきれちゃって(ここは嘘)番号がわからなくなっちゃったので、そちらにまだいないかなと思って電話したんですけど、連絡取れますか?

警察。あー、ちょっと調べてみますねといって、保留音。

これで本当に事件があったら、まあしゃあないから貸したげるかなと思って待ってると、警察さん曰く、今日はそういう届けないですねとのこと。

! やっぱり。。。

ただ、もしかしたらまだこっちに挙がってきてないかもしれないので、交番の方に転送しましょうかとのこと。どっちのターミナルかわかります? というので、彼はいつもANAを使ってるので、おそらくはANAの方でしょうと言ってまわしてもらう。

交番でも事情を話してみると、いや、今日は引継ぎのあった10時以降ではないとのこと。それ以前もないと。ひょっとして、他のターミナルなのかなあと言って、そっちも調べてもらう。でも、やっぱりないと。

えーと、振込み詐欺確定?

ありがとうございましたと言って切る。

ってことで、振り込まないことにしてみた。

一瞬、まだ届けてないのかとも思ったが、警察に話していることは言ってたので、これはもう嘘はほぼ確定。

しばし、ほっといたら30分後くらいに電話がかかってきたが、どう話したらいいかがわからないので出なかった。

本日中の振込み期限が過ぎた3時過ぎに再度、空港警察電話をしてみた。やっぱりそういう事件はないと。

ひったくりとか置き引きってよくありますか、と聞いてみると、たしかにたまにあるらしい。でも、少なくても昨日今日はそういう事件はない。

で、単刀直入に、これって詐欺になるんですかねと聞いてみると、いや、本人は返すと言ってるので、貸して返さなかったら詐欺なんだけど、今はまだ事件とは呼べないと言われる。

どうしましょうかと聞いてみると、まあ、相手を傷つけない程度に断りを入れた方がいいでしょうと。

ありがとうございました、といって、電話を切る。

でもなあ、さすがに電話はできないよなあ。

これでこの事件は今のところおしまい

彼からの電話はその後、まだかかってきていない。

後は僕の雑感です。

Oは何をしたかったのだろうか。

電話を切ってちょっと考えると、仕掛けとしては稚拙にすぎる。

福岡に戻ってから必要なら、今、縁故のある福岡人間に頼めばいいだけ。飲食店をやってるのなら、それくらいの伝はあるだろう。空港から地元に戻るくらいの電車賃くらいなら、警察は大概、貸してくれる。で、借りれるだけ借りたいなんていえば、心のハードルが一気にあがるのは想像できなかったのか。

仮にお店大変で本当に金策に困ってる、とかいう切り口であれば、それなりの話はできたかもしれない。ただし、それも必ず法的な念書なりを取る必要はあるけど。

もう少し考えると、ひょっとしたらOは金策のために東京に来たのかもしれない。すでに福岡では金をかき集めるだけ集めて、それでも限界東京に来たのかもしれない。そうであれば、こういう行動の意味はわかる。その場合、借りた金はちゃんと返そうと考えていたのかもしれない。 でも、それでもこんなやり方では僕には彼に金を貸せない。だって、これじゃ結果は違っても、プロセスは振込み詐欺でしかないもの。

それとも一番、考えたくないけど単純に僕から金を巻き上げようとしていたのか。

あいにくだが僕にはそんな金はない。会社員としてこつこつしている程度の金しかない。口座に数万円ってことはさすがに無くても(まあ、それに近い金額ではあるが)、彼が想像しているかもしれない大きく自由に使える金なんてどこにもない。

僕は彼にとって、おそらく高校時代の最後の友人だ。都会っ子のよくも悪くもクール人間関係では、彼と友人を続けるのはちょっとだけしんどい。彼にとって、僕が東京都のつながりの最後の砦だったのかもしれない。

そういう人間をどうして、こういう引っ掛けにかけようと思ったのか。

なんとも微妙な後味の悪さだけが、このわずか数十分間のやりとりで残った。

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