2008-02-13

タクシーのおじさんは

ずっと自分の話をしていた。自分の話をするだけじゃない。まるで一人で鏡に向かって話しているような喋り方をする。私が褒めても、同調しても、自分自身の話に切り替えてみても、まったく関係なく彼の話が進んでいく。私は鏡の向こうにいて、鏡はマジックミラーだから私から彼のことは見えるけれど、彼は自分の鏡像に遮られて私が見えないのだろう。

運転席と後部座席の間には厚いマジックミラーがある。届かない私の声は、私にもちろん返ってくる。だから私も、おじさんと二人でいるはずなのに私自身と向き合わざるを得なかった。「今日寒いですね」って話しかけられたときにiPodの音量を下げなければ、平和なままでいられたかもしれないのに。

二人いるはずなのに一人でしかいられないのは、お互いに嫌いなんかじゃないのに一人でしかいられないのは、タクシーの車内だけのことではないのかもしれない。

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