天は乳の上に乳を造らず,乳の下に乳を造らずと云えり。されば天より乳を生ずるには,全乳は全乳皆同じ位にして,生れながら貴賤上下の差別なく,万物の霊たる身と心との働を以て,天地の間にあるよろずの物を資り,以て衣食住の用を達し,自由自在,互に乳の妨をなさずして,各安楽にこの世を渡らしめ給うの趣意なり。
されども今広くこの人間世界を見渡すに,短小チンあり,粗末チンあり,貧しきもあり,富めるもあり,貴人もあり,下人もありて,その有様雲と泥との相違あるに似たるは何ぞや。
人は生れながらにして貴賤貧富の別なし。唯学問を勤て物事をよく知る者は貴人となり富人となり,無学なる者は貧人となり下人となるなり。