えー、再婚しないの?
しねーよ。そもそも社内じゃあまだ既婚者ってことになってんだ。
え!離婚したことまだ言ってないの?
言ってないね。
なんで?めんどくさくない?
だってさー名前変わると根掘り葉掘り聞かれそうでヤじゃん。それにさーうちの職場ってプログラマしかいないんだけどさー、あいつら独身の女ってぇとめちゃくちゃ群がるしうざいんだよね。数人同時に言い寄られるとかさ、余計めんどくさいんだよ。
じゃあ名前も戻してないんだねー。
戻してないね。知ってんの総務だけ。税金とか影響すッからさ。
僕はその背後から聞こえてきた会話を耳にして、彼女は僕のようなプログラマにとって目が潰れるほどの魅力を持っているのだろうと妄想した。
そして自分の大事な目を潰さぬため、また自らの妄想が壊れるのが怖くて、決して振り返らずに自分の駅で降りた。
そして、決して自らの職業がけなされたことが悲しいのではないと、うきうきとした外見に見えるように、明るい歌を鼻歌で歌いながら帰った。