花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは。雨にむかひて月も恋ひ、垂れこめて春の行方知らぬも、なほあはれに情け深し。
よろづのことも、肇終わりこそをかしけれ。男女の情けも、ひとへに逢ひ見るをばいふものかは。
逢はでやみにし憂さを思ひ、あだなる契りをかこち、長き夜をひとりあかし、遠き雲居を思ひやり、浅芽が宿に昔を忍ぶこそ、色好むとはいはめ。
望月の隈なきを千里の外までながめたるよりも、暁近くなりて待ち出でたるが、いと心深う青みたるやうにて、深き山の杉の梢に見えたる木の間の影、うちしぐれたるむら雲隠れのほど、又なくあはれなり。椎柴。白樫などの濡れたるやうなる葉の上にきらめきたるこそ、身にしみて、心あらむ友もがなと、都恋しうおぼゆれ。