ぽろろろろん。
隣の部屋から琴の音が聞こえる。
いつもこの時間になると聞こえる。
隣から聞こえる琴の音に匹敵するような音には未だ出会えなかった。
中の身は白く冴えわたり、
ぱくりとくわえた僕の口を
甘く、とろけるような幸福へと誘ってくれる。
だが、私は見てはいけないものを見てしまった。
机の上に板チョコが、、、、
その時、琴の音が止み、
隣の女性が僕の部屋に駆け込んで来た。
「増田さん!早まってはいけないわ! バナナにチョココーティングを施そうなんて、、、邪道よ!」
な、なんてことだ。
僕は一瞬でもバナナを裏切ったのだ。
もう自分自身が許せない。
「さようなら、、、そして、ごめんなさい。」
うつむいて呟く僕を、彼女が制止する。
「待って、、、今ならまだ間に合う。あなた、バナナのこと、愛してるんでしょう?」
そうだ、まだ間に合うんだ。
危うく、大切なものをなくしてしまうところだった。
僕は食べかけのバナナを口に放りこむと、
財布を手に、八百屋へと駆け出した。
まだ、間に合う、、、間に合ってくれ!