気持ちはよくわかる。だが、耳栓には増田の言うような効果は期待できない。通常の耳栓は完全に遮音することを目的としておらず、人間の声は大して遮蔽できないようになっているからだ。さらに、人間は周辺環境情報を耳からだけ得ているわけではない。振動や周辺視野、空気の動きまで、「騒ぐ学生」のもたらすノイズは音に限らない。
ただ、そこが研究室なら、静粛環境を手にする方法はある。それは、殺伐とした空気を作ること。これはものすごく簡単。以前、騒々しく以外なり得ないはずの学部生タコ部屋で、非常に静かなところがひとつだけあった。それは、たったひとりの超神経質な奴がもたらしたものだった。そいつがその部屋にいる間中、ずっとその部屋の空気はぴりぴりしており、余計なおしゃべりをする者も、やかましい来訪者も、一切いなかった。ちなみにそいつの椅子の背中に貼ってあった紙には、こう書かれていた。
警告
無闇に話しかけたら殺します
幸いにしてその部屋から死人が出ることはなかったが、私は一歩踏み込んだだけで窒息死しそうだった。