その子は生まれつき脳に欠陥があり、笑うという感情表現しかできなかった。彼女の感情の起伏は喜怒哀楽すべて「喜」で表現されるのだった。しかも、言語にも障害があり、日常会話はほとんどできなかった。
幼稚園までは、いつも笑っているかわいい女の子、で通っていた。しかし、小学校に上がってからは、薄気味悪い、と、ひどいいじめにあった。彼女はそれでも、否定の言葉をほとんど発することができず、ただ笑っていた。それが不気味だと、ますますいじめに拍車がかかる始末だった。
中学校に進学して、事態は一変する。女の子は男子から一転して暖かく接せられるようになった…少なくとも普段は。
女の子は、喃語と、稚拙な拒絶の意思しか発することができなかった。しかも、笑ったままで。男どもにとっては、その様子は何度やっても刺激に満ちた体験だったようだ。彼等は取り憑かれたようにかわるがわる彼女を犯し続けた。笑いながら、彼女は堪えた。ときに堪えきれず、その目は涙を湛えた。笑いながら、犯されながら、彼女は泣いた。
今や女の子も成人し、誰の子だかわからない息子も幼稚園へ上がる年齢となった。訓練により簡単な接客用語ぐらいは扱えるようになり、彼女は今スーパーのアルバイトで生計を繋いでいる。お客とのトラブルもたまにあるが、総じて笑顔が好評なため、お店が明るくなると他の店員からの評判もよい。今日も女の子は変わらぬ笑顔で忙しく過ごしている。だが、その笑顔が変わることもないゆえ、彼女の本心を知るものもいない。