ねえ、今、ここにいるよね。
訊くと彼はいつもこう言った。
そうだね。
彼の絶望を私は知らない。
ただの一言も遺さずに自死を選んだ彼の目は一体、
何を映していたのだろう。
ずっと傍にいた、
若しくはそう思っていただけかもしれない私は、
私の断片は、そこに少しでもいいから、在ったのだろうか。
或いはしかし、実は何も無かったのかもしれないと、
ふと思い至っては考えを中断させた。
それは常に、驚くほど同じように鮮明に繰り返された。
彼の抱えた恐怖を、
もしかしたら孤独と表せる悲しみを、その度に私は見た。
夜明け前に目を覚ませば、
隣に眠るはずの彼はいつも、四畳半で首を括っていた。
いつもいつも変わらず頬を伝った涙が不快だった。
流れても流れても何も流さない涙は生温かく、不快だった。
この手で私は、彼を撫でた。
掌に滲んだ汗を眺めて私は思う。
この腕で私は、彼を抱いた。
もう、しばらく痺れてうまく動かない。
眼を閉じれば蛍光灯が、瞼の裏を照らした。
ねえ、ここにいたよね。
ようやく彼の声を聞いた気がした。