童貞の僕が自分が自分の心の状態を知りたいとき、どうするか。
街のカップルを観察する。
「ああ、幸せそうだなあ。微笑ましいな」
そう思えれば合格点だ。
疲れがたまっていたり、憂鬱だったりすると、カップルを見て、僕は必ず歯を食いしばってしまう。
ぐぎぎぎぎぎぎぎ。
ぐぎぎぎぎぎぎぎ。
ぐぎぎぎぎぎぎぎ。
渾身の力で拳を握りこんでしまう。
ぎゅうううううう。
ぎゅうううううう。
ぎゅうううううう。
見えないバットを脳内で動かし、幸せな二人の後頭部を殴りつける。
大体、その辺りで我に気づく。
ごめんね、と僕は思う。君達が悪いわけじゃないんだ。僕が邪悪なだけなんだ。
そのとき、もう僕には歯をくいしばるだけの力がなくて、拳を握りしめるだけの力もなくて、
誰にも気づかれないくらい、小さくカタカタと全身を震わせている。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
生まれてきて、ごめんなさい。