彼女と遊園地に行ったんです。それでジェットコースターに乗ろうって誘ったんですよ。
彼女は今まで一度もジェットコースターに乗ったことがなくて、一方、自分はジェットコースター好きなので、よく話題にしてはいたんだけど。シートに体を固定するレバーが頭の上からかちゃりと下ろされてね、発車のベルが鳴ると、吊上げのリフトにガチッと乗り物がハマってちょっとガクンとなるのね、んで一瞬間を置いて、グイイイって少しレールを軋ませながら、じわりとコースを昇り始める。どこまで昇ってくんだろう、ここで稼いだ位置エネルギーの分だけ、後のスリルが増してくんだよなあなんて考えながら景色を見下ろす、このドキドキ感が堪らないんだよ、なんて力説したりして。だから彼女も、
「一度乗ってみようかな」
とか
「一緒なら平気かも」
とか少し乗り気になっていたはずなんですよ。少なくともそこに行くまでは。だけどいざ、きゃあきゃあ悲鳴を上げる人達を乗っけて、凄い早さで目の前を通り過ぎて行くのを目にしたら、怖じ気づいちゃった、
「やっぱり怖いからヤダ」
って。何で怖いの?それがいいんじゃんって言ったら、
「だって何だか落っこちそう」
だって。
そんなわけないから、絶対大丈夫、そういうふうに設計されてるんだし、安全には凄く気を使って管理されてるんだから、って一生懸命説得するんだけどダメ。結局、
「私はここで見てるから乗っておいで」
って。正直な気持ち、怖がる彼女が自分の手をきつく握って来たり、袖にしがみついて来たり、何か普段は見せないそういう可愛らしい仕草が見られるかも、なんて幼稚な期待もしてたんで、一緒に乗れないなら楽しさ半減だから、自分も乗るの止めておきたかったんだけど、彼女、自分がジェットコースター好きなの知ってるし、ここで乗らなかったら自分のせいで楽しめなかったと落ち込ませちゃいそうな気がして、一人で乗ることにした。自分が楽しそうに乗ってみせたら、気が変わってくれるかもって思ってたのも、少しだけある。手振るから見ててなんて言い残して、荷物預けて一人で並んで。で、いざ乗り込んだわけなんですけど……
なんだろ、何かそのとき、今までとまるっきり違う感覚だった。ちっとも、ドキドキしないんです。なぜだろう、彼女にこの楽しさを伝えたくて、だから一緒にジェットコースターに乗りたくて、それで怖くないよ危なくないよって必死でアピールしてるうちに、自分が今まで、なんでドキドキしてたのか分からなくなってしまった。だって、考えてみたら、絶対安全な乗り物に腰掛けて、数分間グルグル連れ回されたあげく、結局一周してまた元の場所に戻ってくるだけなんですよ?
あれ?ひょっとして自分はジェットコースター好きじゃなかった?とか、ドキドキしてたのは、万に一つ、故障したり落っことされたりするかもしれないと疑ってたから?なんて思ったりした。それが、安全だ、怖くない、って主張してるうちに自分が暗示にかかったのかもしれない。もしそれがジェットコースターのスリルの正体だったとしたら、ジェットコースターって乗り物はとても不思議。だって、確実に安全だって信じているはずなのに、でももしかして、って疑う気持ちがあるから楽しめるってことで。自分は何に楽しみを見出していたんだろう、どこまでジェットコースターを信じてたんだろう、信じるって一体どういうことだろう、とか深く考え込まされる羽目になってしまった。
結局その後、彼女とは、一緒にちっちゃなジェットコースターに乗りました。
これくらいなら大丈夫かも、って言ってくれたので。実際、彼女も楽しそうだったし、
正直、自分もそれが一番楽しかった、今まで乗ったどんなジェットコースターよりも。
私の場合はスピードによる加速度とか横Gとかが面白いんだけど。 安全性を疑ったりはしていないよ。 私が手に持った飛行機を振り回すようなノリで、機械が私をぶんぶんと飛ばしてくれ...
同じく。 なんというか、感覚的な言葉を使うと「安く乗れる戦闘機」に近い。 富士Qのドドンパなんかは正にそう。ていうか設計者自体が「怖がらせよう。ドキドキさせよう」じゃなくて...