「先輩、ありがとうございました」
まるで部活の挨拶のように声をそろえて言った後輩くんたちは、ドアのベルを鳴らして軽やかに出ていった。ご丁寧に手までつないで。わたしは軽く手をあげて、氷が溶けきってただの砂糖水のようになってしまったアイスコーヒーを一口飲んだ。
「ちくしょう」
そう小声でつぶやいてみる。あんなにも普通に青春できるやつだったなんて。彼は私のことを先輩なんて呼ぶけれど、実のところわたしは先輩でもなんでもない。彼が名付けた、訳ではないけれど、彼の一言で広まってしまったニックネームのことが、わたしは嫌いだ。だいいち、彼とは誕生日も一年と違ってはいない。
「ちくしょう」
もう一度そうつぶやいて、タバコに火をつけようとしたら店員に注意された。そういえばここは禁煙だった。ごまかすようにアイスコーヒーのおかわりを頼む。ここのアイスコーヒーは、はっきり言ってまずい。それなのになぜここをよく使うのか、彼にきいてみたことがある。そうしたら、人がいないことと、禁煙であること。喫煙者であるわたしを目の前にして彼はそう断言した。万事においてそういうやつなのだ。
それなのに、わたしがタバコをやめたことを報告しても、そうですかの一言ですます。とんだにぶちんやろーだ。
ともちゃんが彼のことで相談してきたときは正直にいってびっくりした。彼は見た目はかわいいのだけれど、偏屈で論理家で、おまけに説教くさい。友達付き合いをするにはいいけれど、おおよそ女の子にもてるタイプではない。少なくともライバルはいないと安心していたのに。彼がともちゃんのことを気にかけているのは気付いていたけれど、ともちゃんは彼のことなんかハナにもかけないだろうなと勝手に思い込んでいた。
ともちゃんの切実な訴えをきいているうちに、ちょっと心配になって彼の性格のことを言ってみたら、先輩も彼のことが好きなんですか?だなんて言われてしまった。外れではないけれど、当たりでもない。そういう意味で言ったわけじゃない。
結局ともちゃんの願いを聞き入れて、想定とは少し違ったけれどこうしてうまくいった。ともちゃんが電話先で本当のことを言うだなんて思ってもみなかったし、ましてや外出していたともちゃんがここまで来て、二人でデートに出かけるだなんて、そんなことあっていいんだろうかとすら思うけれど。
「ま、いいんだろうな」
と口にだす。でも。昨日の今日で呼び出されて、はりきって準備をしたというのに。めったにかかってこない彼からの電話で、年甲斐もなく初デートかな、だなんて思ったりして。あまりにも滑稽すぎる。
彼は、ともちゃんがくるまでの間、おちつかなさそうに、でも、うれしそうにこう言った。
「全部はっきりわかって良かったです」
でも。わたしは甘いだけのアイスコーヒーを飲みながら、一人つぶやく。
「君は本当の真相にたどり着いたわけじゃないんだよ」
ドアのベルを軽やかに鳴らして先輩が入ってきた。さて、勝負はここからだ。ぼくは甘ったるいアイスコーヒーを一口飲んで、気を落ちつかせた。 「あ、アイスコーヒーひとつね。どう...
(先に、こちらを読むことを強くお勧めします) 「先輩、ありがとうございました」 まるで部活の挨拶のように声をそろえて言った後輩くんたちは、ドアのベルを鳴らして軽やかに出てい...
アッー! つくつくぼうしのなく頃に 解決編 -ぼくの場合- つくつくぼうしのなく頃に 解決編 -わたしの場合-
そのままラノベに出来そう。見習いたい。