■先手必勝 改

　俺は思った。行動第一だって。行動こそ全てだって。間違いないって、

な。だから、今日も行動したよ。

　机を挟んだ向かい側に座っている先輩に、今までの思いを込めて気持ちをぶつけた。

「先輩」

「何？」

「キスしまい」

　そういったら、先輩が盛大に口に含んだドリンク（○ポビタンD）をぷぺぺと噴出した。俺は椅子ごと回転して回避した。少しもったいないが。

　先輩は一通りドリンク（○ポビタンD）を噴出すと、ひとしきり咳き込んでからこう言った。

「げほっ、なななななな何言ってんだ、おめぇ。

いつも唐突だけど今日は特に酷いな。何だ？　何か嫌なことあったのか？」

「いえ、単に先輩とキスがしたくてしたくてしたくてしたくてしたくてしたくてしたくてしたくてしたくてしたくてしたくてしたくて、

　その、たまらんのです」

「はいはい。言い分はわかった。お前の頭の調子がおかしいのもわかった帰って寝ろ」

　今日の先輩はあまりにすげなかった。でも俺はめげずにもう一押しかけた。

「じゃあキスしてくれると？」

「……繋がってない。話が一向に繋がってないぞ」

「そうっすか？」

　俺がきょとんとすると、先輩は俺にわかるように駄目だしをしてくれた。

「あのなぁ、まず俺はお前とキスをするような関係でもない。ただの先輩後輩だ」

「そうっすか？」

「え……、その、そ、そうだよ！　ただの先輩後輩っ！

えー、おほん。

それに、それ以前に？　俺とお前は、女の子同士、なんだぞ？」

「そうっすか？」

「……今ここで性別違いましたなんていわれても困るから確認するけど、女だよな、お前」

「はい」

「女なのに、女の俺がいいのか？」

「いえ。女だからじゃなく、先輩だからいいんだす。先輩以外は嫌です男でも女でも誰でも。だから、キスしまい？」

　そう言って俺がもう一度ずずいと迫ると、先輩は嫌そうな顔をしつつ、

「……一瞬殊勝な感じに聞こえるから困るんだよなぁ」

　とつぶやいた。小さな声だけれど俺のいかれた耳は聞き逃さなかった。

「殊勝っすよ俺。先輩一筋っすっ」

　そう言うと、先輩は一瞬間の抜けた顔をしたかと思うと、どっと笑い出した。

「うへへ。

お前なぁ、自分で自分の事を殊勝って言うやつがあるかっての。

うへへ、へへへへへ」

先輩の突如の笑いに俺は何が何だかわからずに、呆然としたっちゃ。だって笑う所じゃないだろ？

でも、先輩はなんだかツボにはいったのか、うひうひと笑い続けた。

流石に笑いすぎだから、俺は抗議しようと机に身を乗り出した。

そこに、突き出た俺の唇に、先輩のそれがくっついた。

「めめたっ」

　俺が慌てて後ろに飛びのき、座っていた椅子にけっつまづいて盛大に後ろにぶっ倒れた。肘やら足やらしっちゃかに打って、痛いのなんのったらなかった。

でも、そんなのあの感触、先輩の唇の感触に比べたらちっぽけなことだった。それがもたらした衝撃に比べたら屁みたいなものだった。それくらいに、俺はびっくりした。

　びっくりしたままの俺に、先輩は照れた笑みを浮かべてこう言った。

「キスしよ、って言うからしてやったのに、ちょっとびっくりしすぎだぞ、お前」

　その時、○ポビタンD味を唇に感じながら俺は思った。やっぱり行動第一だぜよ。

Permalink | 記事への反応(1) | 13:42

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