2012-07-09

男の人が怖い

 現実の男の人が恐ろしい、という感情を、いつから抱くようになったのだろう。

 小学校以前、男子女子の境は、これといってなかったような気がする。

 むしろ三人のいとこと共に育った私は、どちらかといえば男の子のほうが、近しい生きものだと思っていた。かけっこや木登りもしたし、保育園休み時間には活発に遊んだ。おえかきも好きだったけれど、おゆうぎしつが使える時には、そちらへ行った。ずっと教室にこもって遊ぶ女の子たちのことは、少し軽蔑さえしていた。

 小学校入学すると、少し雰囲気が変わった。男子女子ふたりきりで帰ることは、おかしいことになった。あからさまにおかしい、と明言することは誰もしなかったけれど、やはり、少しだけ雰囲気は変わっていたのだ。

 私にとって、小学校低学年の男子女子性差なんてないも同然だった。プール時間に、全員が一緒の教室で着替えていた。ませた女子はきゃあきゃあと騒いでいたけれど、私はやはり、そういった女子軽蔑していた。休み時間男子とも遊んだ体育館でくだらない遊びをするなら、断然男子相手だった。けれど一緒に帰るのは女子だった。放課後に遊ぶのは、女子のほうが多かった。男女一緒に遊ぶことも、確か、あった。

 小学校中学年には、あまり外で遊ばなくなった気がする。それは眼鏡を掛け始めたからだったかもしれないし、絵を描くことの楽しみのほうが大きくなっていったからかもしれなかった。あ、それと、木登りをしていて、虫に遭遇したのがトラウマになったのもある。それから自分の体力のなさを自覚していったから、というのも。平均よりも重い体重は、運動をするにはあまりにも不利だった。

 それでも四年生からソフトボールを始めた。理由はよく遊ぶ友達が始めていたから、という単純な理由だった。私よりも先に始めていた子が、ソフトの練習があるから、と遊びを断るようになって、淋しかったのだ。私はその子のことが、だいぶ好きだったのだろう、と今になって思う。その子の影響で、手話を始めたりもしていた。

 さて、愚鈍なる小学生の私は、ソフトボール卒業まで続けた。俊敏性はなかったけれど、それほど落ちこぼれていたわけではなかった。と思いたい。マラソン大会では決まってドベのほうにいたけれど、ソフトボールはずっと走っているわけではない。練習はまあ楽しかったし、上の学年の人はいい人たちばかりで、下の学年の子たちはかわいい子ばかりだった。と思う。思い出は美化されているので、確かではない。

 小学校高学年くらいから、男女は「おつきあい」をするようになった。私は蚊帳の外人間であった。クラスの中のヒエラルキー上位層の人間たちが、数日や数週間でつきあったり別れたりを繰り返してバレンタインに盛り上がったりするのを、私は少し近いところで見ていた。私が告白することはなかったし、告白されることも当然ながら有り得なかった。私はクラスで二番目に太っていた。私のことを「女子」とカテゴライズすること自体がおかしい。そうだ、そういえば当時の私は、「俺」という一人称であったのだった。

 中学校入学しても愚鈍な私は「俺女」であった。そういった一人称女子は何人かいた。

 入学してすぐに、私は担任に目をつけられる。すなわちいじめ主犯格として。

 これについて弁明をするならば、それは「いじめ」ではなく「喧嘩」であった。私が小学校の頃から仲の悪い女子がいて、それは中学校に上がってからも続いていた。私はとにかくそつがいることが嫌で、それはそいつにとっても同様であるはずだった。すれ違えば舌打ちをした。私はそいつにぶつかった。そういった陰湿喧嘩の一部を、そいつは教師に告げ口をした。そう、私の行為についてばかりを、切り取った「一部」を。

 私が何を言っても私が悪いことには変わりない。それは絶望的な事実であった。事実として、私はそいつの靴を隠したし、そいつにぶつかったし、そいつのことが頭に大を何個つけても足りないくらいに嫌いだった。事実として私はそいついじめていたのだろう。そう、つまり私が悪いのだ。私がかつてそいつに幾度となく泣かされていたという事実など、中学校の教師は知らないのだから

 加えて絶望的だったのは、そいつはかわいらしい容姿をしていたことだ。愛想のない根暗な豚と、かあいらしい人間と、どちらの言い分を信じるだろうか。後者だろう。豚は人間を妬み、そして一方的な暴力を振るったのだ。

 何も知らないくせに、と豚は叫んだ。同じような豚の教師は、ああ知らないさ、と開き直った。そうか、と私は絶望した。教師は男だった。そうか、何も知らないのに、そいつのほうを信じるのか。私たちのことなんて、何も知らないくせに、知ろうともしないくせに。教師ってそういうものか。中学校ってそういうものか。男って、そういうものか。かわいいほうの言うことを、信じるんでしょう?

 男子生徒とは、まあ普通に接していた。おつきあいなどの色っぽい話にはならなくて、ただ、珍獣としてうまくやっていたのではないか、と思う。珍妙な渾名で面白がられたり、怖がられたりしていた、気がする。記憶は薄ぼんやりとしていて不鮮明だ。ただ、ある日いきなり特定の男子から嫌がらせをされるようになって、それだけが、どうしても意味がわからなかった。女子は私にそうした嫌がらせをしてこなかったから、男子のそういった女々しさのようなものがさっぱりわからなくて、見えない悪意が怖くて、怯えた。

 高校に入ると男子は別の生きものだった。私は一人称を改めた。女子の側で、女子の振りをすることにした。男子は恐ろしい生きものだった。中学からの友人と一緒にお昼ごはんを食べるために、その子の近くの席を借りた。男子の席だった。昼休みが終わると、その男子は先程まで私が座っていた椅子を、別の席の椅子と換えた。その事実は、友人から聞かされた。知りたくもない事実だった。

 友人の話だけを聞いていると、その男子は友人に惚れているようだった。友人は気持ち悪いと言っていたけれど、ばいきん扱いされるよりも好意を寄せられるほうがよっぽど良いはずだった。

 高校三年生になった私は、ひとりの女の子とおつきあいをするようになった。それはその子から頼まれてのことだった。それはばかげた話だったけれど、私はかわいいの子のことが嫌いではなかったし、失いがたい友人であったので、それを失うくらいならと、おつきあいを承諾した。その子の他に私を好きになるような人間は生涯現れないだろうという気持ちもあった。私のファーストキスはその子のものだった。性器に指を入れられた。気持ちよくはなかった。

 私とおつきあいをした子には、何人かの彼氏がいた。そのことは知っていたけれど、まあ、良かった。いや、良くはなかったか。他の人と別れて、というようなことは、言った気がする。けれど色々あって、その子は結局、一人の男を選んだのだった。

 私はただただ道化であった。ばかばかしい話だ。男も女も面倒だ。どうせ誰にも愛されない。ひとりでいるのが正解だ。でも、でもさあ、私だって、まっとうに、愛されたいんだよ。

 高校を卒業し、眼鏡をやめ、ダイエットをした。髪を明るく染めた。ナンパをされるようになった。私はすぐに股を開いた。そうする以外に男の人とのつきあい方を知らなかった。好きな人ができた。それでも、きちんと段階を踏んでのおつきあいはできなかった。まずは酔った振りで相手を誘って、セックスをした。そんなことしかできなかった。そうするしか知らなかった。

 セックスをすると、男の人は私をかわいいと言った。豚を、ばいきんを、かわいいと言うのだった。そんなことは言われたことはなかった。声を上げてエロマンガよろしく喘げば男の人は喜んだ。きもちいい、と言うと良い気分になるようだった。私の価値性器と乳にはあるようだった。顔面には、まあ、ないんじゃないかと思う。

 男友達を作るといいよ、と、幼馴染が言った。しかし、男の人と何を話したらいいのかわからない。男の人と、セックス以外に、することがあるのだろうか?

 男の人は私を豚やばいきんにしてしまう。私だって、いちおう人間なのに。そんな人たちばかりではないとわかっている。けれど、私はやっぱり、男の人が恐ろしいのだ。

  • 私の友人にも何人かこういう感じの過去を語る人がいて、 こういう過去持ちに共通するのは 20代~30代にかけて男性関係で苦労するってとこ 本人幸せになりたい筈なのにハタから見てる...

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      • 絶望的に不潔な容姿でなければ女性なら誰でも出来ると思うとのことだけど あなたが女性でそう思うのであればあなたは容姿に恵まれているか女の性の価値を過大評価しており あなたが...

        • 実際問題、ああいう「囚人のジレンマ」のような 「誰も望まない結末に社会全体が進んでしまう」 状況を改めるには、世の中の制度を変えるしかないのに。

          • フランチャイズは違法にするべき。 下請法どころではない不公平な契約を結ばされている。引っかかる奴が後を絶たないのもアレだが、頭の弱い者、立場の弱い者を食い物にする商売は...

    • これも意味不明。

  • あれだな、恋愛はしばらくやめてみて、自分の心の傷を癒すことに専念したほうがいいのかもな。 カウンセリングに通うとかしてさ。 そうしないと同じパターンを何度も繰り返しそうだ...

  • かわいそうだね。 それしか言えんなあ。 みじめだね。

  • 今の年が分からないけど、考えてることが単調すぎないか? ここに書いてる事が全てじゃない気もするが みんなもっとずるくて賢い人よ。 思い切った行動を起こす前にもっと多様な事...

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